本格数学クイズ (微分法)
関数の最大・最小
クイズ《ケプラーのワイン樽の問題》
中に一定の長さの棒が入るように円柱形のワイン樽を作る.
容積を最大にするには, 底面の直径, 高さ, 棒の長さの比をどのような値にすればよいか.
ただし, 棒の太さは考えないものとする.
(有名問題)
答え
$\sqrt 2:1:\sqrt 3.$
解説
長さ $1$ の棒が入る円柱形の容器において, 底面の半径を $r,$ 高さを $h,$ 容積を $V$ とおく.
このとき, $0 < h < 1$ であり, 三平方の定理により
が成り立つ.
\[\begin{aligned}
V &= \pi r^2h = \frac{\pi}{4}(h-h^3), \\
\frac{dV}{dh} &= \frac{\pi}{4}(1-3h^2)
\end{aligned}\]
であるから, $V$ の増減は下表のようにまとめられる.
したがって, $V$ は $h = \dfrac{1}{\sqrt 3}$ のとき極大かつ最大の値をとる.
ゆえに, 底面の直径, 高さ, 棒の長さの比が
\[ 2r:h:1 = \frac{2}{\sqrt 6}:\frac{1}{\sqrt 3}:1 = \sqrt 2:1:\sqrt 3\]
であれば, 容積は最大になる.
$1^2 = (2r)^2+h^2$ つまり $r^2 = \dfrac{1-h^2}{4}$ |
$h$ | $0$ | $\cdots$ | $\dfrac{1}{\sqrt 3}$ | $\cdots$ | $1$ |
$\dfrac{dV}{dh}$ | $+$ | $0$ | $-$ | ||
$V$ | $\nearrow$ | 極大 | $\searrow$ |
クイズ《正方形の紙で作れる最大の箱》
正方形の紙の四隅から正方形を取り除き, その残りを折り曲げて, ふたのない正四角柱の箱を作る.
容積を最大にするには, 底面の $1$ 辺の長さと高さの比をどのような値にすればよいか.
ただし, 紙の厚さは考えないものとする.
(有名問題)
答え
$4:1.$
解説
$1$ 辺の長さが $1$ の正方形の紙で考える.
箱の高さを $x,$ 容積を $V$ とおく.
このとき, 底面の $1$ 辺の長さは $1-2x$ であり, $0 < x < \dfrac{1}{2}$ である.
\[\begin{aligned}
V &= x(1-2x)^2 = 4x^3-4x^2+x, \\
\frac{dV}{dx} &= 12x^2-8x+1 = (2x-1)(6x-1)
\end{aligned}\]
であるから, $V$ の増減は下表のようにまとめられる.
したがって, $V$ は $x = \dfrac{1}{6}$ のとき極大かつ最大の値をとる.
ゆえに, 底面の $1$ 辺の長さと高さの比が $1-2\cdot\dfrac{1}{6}:\dfrac{1}{6} = 4:1$ であれば, 容積は最大になる.
$x$ | $0$ | $\cdots$ | $\dfrac{1}{6}$ | $\cdots$ | $\dfrac{1}{2}$ |
$\dfrac{dV}{dx}$ | $+$ | $0$ | $-$ | ||
$V$ | $\nearrow$ | 極大 | $\searrow$ |
クイズ《カプセルに入る最大の積み木》
球形のカプセルの中にできるだけ体積が大きい三角柱の積み木を入れるとき, その体積はカプセルの容積の何倍になるか.
(有名問題)
答え
$\dfrac{1}{\pi}$ 倍.
解説
円に内接する最大の三角形は正三角形であるから (証明は省略), 半径 $1$ の球に内接する正三角柱 $\mathrm{ABC}$-$\mathrm{DEF}$ の体積 $V$ の最大値を求める.
底面の $1$ 辺の長さを $a,$ 球の中心を $\mathrm O$ とおき, $2\theta = \angle\mathrm{AOD}$ とおく.
- (1)
- $\theta$ を用いて $V$ を表す. 辺 $\mathrm{AD}$ の中点を $\mathrm M,$ $\triangle\mathrm{ABC}$ の重心を $\mathrm G$ とおく. 直角三角形 $\mathrm{OAM}$ に着目すると \[\cos\theta = \cos\angle\mathrm{AOM} = \frac{\mathrm{OM}}{\mathrm{OA}} = \frac{\mathrm{AG}}{1} = \dfrac{2}{3}\cdot\frac{\sqrt 3}{2}a = \frac{a}{\sqrt 3}\] となるから, $a$ は \[ a = \sqrt 3\cos\theta\] と表せる. また, この正三角柱の高さは $2\sin\theta$ であるから, 体積は \[\begin{aligned} V &= \frac{1}{2}a^2\sin 60^\circ\cdot 2\sin\theta \\ &= \frac{\sqrt 3}{2}\cdot (\sqrt 3\cos\theta )^2\cdot\sin\theta \\ &= \frac{3\sqrt 3}{2}\sin\theta\cos ^2\theta \end{aligned}\] と表せる.
- (2)
- $V$ の最大値を求め, 体積比を求める.
$x = \sin\theta$ とおく.
\[\frac{2}{3\sqrt 3}V = \sin\theta (1-\sin ^2\theta ) = \sin\theta -\sin ^3\theta = x-x^3\]
であるから, この右辺を $f(x)$ とおく.
\[ f'(x) = 1-3x^2\]
であるから, $f(x)$ の増減は下表のようにまとめられる ($0 < x < 1$ に注意).
よって, $f(x)$ は $x = \dfrac{1}{\sqrt 3}$ のとき極大かつ最大の値をとるから, $V$ の最大値は \[\frac{3\sqrt 3}{2}\cdot\frac{1}{\sqrt 3}\left( 1-\frac{1}{3}\right) = 1\] である. ゆえに, 求める体積比は, \[ 1\div\pi\cdot 1^2 = \dfrac{1}{\pi}\] である.
$x$ $0$ $\cdots$ $\dfrac{1}{\sqrt 3}$ $\cdots$ $1$ $f'(x)$ $+$ $0$ $-$ $f(x)$ $\nearrow$ 極大 $\searrow$
クイズ《円錐形の容器の容積の最大化》
円形の薄い紙を $2$ つの扇形に切り分け, 小さくない方の扇形の直線部分を貼り合わせて, ふたのない円錐形の容器を作る.
容器の容積が最大になるようにするには, 中心角の大きさをいくらにすればよいか.
(有名問題)
答え
$2\pi\sqrt{\dfrac{2}{3}} = 293.93876\cdots^\circ.$
解説
扇形の半径を $1$ とし, できる円錐の底面の半径を $x$ とおく.
このとき, 容器の高さ $h$ は三平方の定理により
\[ h = \sqrt{1-x^2}\]
であるから, 容器の容積 $V$ は
\[ V = \frac{1}{3}\pi x^2h = \frac{1}{3}\pi x^2\sqrt{1-x^2}\]
である.
$f(x) = (x^2\sqrt{1-x^2})^2$ とおく.
\[ f(x) = x^4(1-x^2) = x^4-x^6\]
であるから
\[ f'(x) = 4x^3-6x^5 = -6x^3\left( x^2-\frac{2}{3}\right)\]
であり, $f(x)$ の増減は下表のようにまとめられる ($0 < x < 1$ に注意).
よって, $x = \sqrt{\dfrac{2}{3}}$ のとき, $f(x)$ は極大かつ最大の値をとる.
このとき, $V$ は最大であり, 扇形の中心角の大きさは
\[ 2\pi x = 2\pi\sqrt{\frac{2}{3}}\]
である.
$x$ | $0$ | $\cdots$ | $\sqrt{\dfrac{2}{3}}$ | $\cdots$ | $1$ | |
$f'(x)$ | $+$ | $0$ | $-$ | |||
$f(x)$ | $\nearrow$ | 極大 | $\searrow$ |
参考
円の半径が $1$ のとき, 容器の容積の最大値は
\[ V = \frac{1}{3}\pi\left(\sqrt{\frac{2}{3}}\right) ^2\sqrt{1-\left(\sqrt{\frac{2}{3}}\right) ^2} = \frac{2\pi}{9\sqrt 3}\]
である.
クイズ《廊下を通過できる棒の長さの最大値》
幅 $x,$ $y$ の通路が直角につながった廊下を, 水平に保ったまま通過できる棒の長さの最大値はいくらか.
ただし, 通路は十分に長いとし, 棒の太さは無視して考えるものとする.
(有名問題)
答え
$(x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}})^{\frac{3}{2}}.$
解説
角を通過するとき, 長さが最大の棒は, 曲がり角, 幅 $x$ の通路の壁, 幅 $y$ の通路の壁の $3$ 点で廊下に接する.
このような棒のうち角を通過できるのは長さが最小のものであるから, その最小値を求めればよい.
棒が $3$ 点で廊下に接するとして, 棒と幅 $y$ の通路のなす鋭角を $\theta$ とおき, 棒の長さを $f(\theta )$ とおく.
棒を曲がり角で $2$ つに分けると, 棒の長さは
\[ f(\theta ) = \frac{x}{\cos\theta}+\frac{y}{\sin\theta}\]
と表される.
\[ f'(\theta ) = \frac{x\sin\theta}{\cos ^2\theta}-\frac{y\cos\theta}{\sin ^2\theta} = \frac{x\sin ^3\theta -y\cos ^3\theta}{\sin ^2\theta\cos ^2\theta}\]
であるから,
\[\cos\alpha = \frac{x^{\frac{1}{3}}}{\sqrt{x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}}}}, \quad \sin\alpha = \frac{y^{\frac{1}{3}}}{\sqrt{x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}}}}\]
なる鋭角 $\alpha$ について, $f(\theta )$ の増減は下表のようにまとめられる.
よって, $f(\theta )$ は $\theta = \alpha$ のとき極小かつ最小の値
\[\begin{aligned}
f(\alpha ) &= \frac{x}{\cos\alpha}+\frac{y}{\sin\alpha} = x\cdot\frac{\sqrt{x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}}}}{x^{\frac{1}{3}}}+y\cdot\frac{\sqrt{x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}}}}{y^{\frac{1}{3}}} \\
&= (x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}})\sqrt{x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}}} = (x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}})^{\frac{3}{2}}
\end{aligned}\]
sをとる.
ゆえに, 求める棒の長さの最大値は $(x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}})^{\frac{3}{2}}$ である.
$\theta$ | $0$ | $\cdots$ | $\alpha$ | $\cdots$ | $\dfrac{\pi}{2}$ |
$f'(\theta )$ | $-$ | $0$ | $+$ | ||
$f(\theta )$ | $\searrow$ | 極小 | $\nearrow$ |
参考
棒の長さが $a$ で一定であるとすると, 通路の幅 $x,$ $y$ は
を満たす.
この方程式が表す曲線は, アストロイド (astroid) である.
$(x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}})^{\frac{3}{2}} = a$ つまり $x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}} = a^{\frac{2}{3}}$ |
クイズ《円に内接する面積最大の三角形》
与えられた円に内接する三角形のうち面積が最大であるのはどのような三角形か.
(有名問題, 参考: $1986$ お茶の水女子大)
答え
正三角形.
解説 1: 文系向け
単位円 $\mathrm O$ に内接する $\triangle\mathrm{ABC}$ について考えれば十分である.
辺 $\mathrm{BC}$ の中点を $\mathrm M$ とおき, $a = \mathrm{BM}$ とおく.
さらに, $\mathrm{BC}$ を底辺としたときの高さを $h$ $(0 < h < 2)$ として, $S = \triangle\mathrm{ABC}$ とおく.
辺 $\mathrm{BC}$ を固定した場合に $h$ が最大になるとき $S$ は最大になるから, $\mathrm{AB} = \mathrm{AC}$ の場合を考えれば十分である.
このとき, $\triangle\mathrm{OBM}$ は直角三角形であるから, 三平方の定理により
\[\begin{aligned}
a^2+|h-1|^2 &= 1^2 \\
(h-1)^2 &= 1-a^2 \\
h^2-2h+1 &= 1-a^2 \\
a^2 &= 2h-h^2 \\
a &= \sqrt{2h-h^2}
\end{aligned}\]
が成り立つ.
よって,
\[ S = \frac{1}{2}\cdot\mathrm{BC}\cdot h = ah = h\sqrt{2h-h^2}\]
である.
$S > 0$ により $S^2$ が最大であるとき $S$ は最大になるから,
\[ S^2 = h^2(2h-h^2) = -h^4+2h^3\]
の最大値を求める.
\[\frac{dS^2}{dh} = -4h^3+6h^2 = -4h^2\left( h-\frac{3}{2}\right)\]
であるから, $S^2$ は $h = \dfrac{3}{2}$ のとき最大値をとる.
このとき,
\[ a = \sqrt{2\cdot\frac{3}{2}-\left(\frac{3}{2}\right) ^2} = \frac{\sqrt 3}{2}\]
であり,
\[\mathrm{BC}:h = \sqrt 3:\frac{3}{2} = 2:\sqrt 3\]
が成り立つから, $\triangle\mathrm{ABC}$ は正三角形である.
ゆえに, $\triangle\mathrm{ABC}$ が正三角形であるとき, $S$ は最大になる.
解説 2: 理系向け
単位円に内接する $\triangle\mathrm{ABC}$ について考えれば十分である.
$\mathrm{BC} = a,$ $\mathrm{CA} = b,$ $\angle\mathrm A = x,$ $\angle\mathrm B = y,$ $\angle\mathrm C = z,$ $S = \triangle\mathrm{ABC}$ とおく.
- (1)
- 正弦定理により \[ a = 2\sin x, \quad b = 2\sin y\] であるから, \[\begin{aligned} S &= \frac{1}{2}ab\sin z \\ &= \frac{1}{2}\cdot 2\sin x\cdot 2\sin y\cdot\sin z \\ &= 2\sin x\sin y\sin z \end{aligned}\] が成り立つ.
- (2)
- (1) と $z = \pi -x-y$ から,
\[\begin{aligned}
S &= 2\sin x\sin y\sin (x+y) \\
&\qquad (0 < x < \pi,\ 0 < y < \pi,\ 0 < x+y < \pi)
\end{aligned}\]
が成り立つ.
まず, $y$ を定数とみなして,
\[ f(x) = 2\sin y\sin x\sin (x+y)\]
の最大値を求める.
\[\begin{aligned}
f'(x) &= 2\sin y\{\cos x\sin (x+y)+\sin x\cos (x+y)\} \\
&= 2\sin y\sin (2x+y)
\end{aligned}\]
であり, $0 < y < \pi$ から $\sin y > 0$ であるので,
\[\begin{aligned}
f'(x) \geqq 0 &\iff \sin (2x+y) \geqq 0 \\
&\iff 2x+y \leqq \pi \iff x \leqq \frac{\pi -y}{2}, \\
f'(x) \leqq 0 &\iff x \geqq \frac{\pi -y}{2}
\end{aligned}\]
が成り立つ ($0 < 2x+y < 2\pi$ に注意).
よって, $f(x)$ は $x = \dfrac{\pi -y}{2}$ の場合に限って, 極大かつ最大の値 \[\begin{aligned} f\left(\frac{\pi -y}{2}\right) &= 2\sin y\sin\frac{\pi +y}{2}\sin\frac{\pi -y}{2} \\ &= 2\sin y\cos ^2\frac{y}{2} = \sin y(1+\cos y) \end{aligned}\] をとる (余角公式, 半角の公式による). そこで, $x = \dfrac{\pi -y}{2}$ のもとで, この式を $g(y)$ とおき, その最大値を求める. \[\begin{aligned} g'(y) &= \cos y(1+\cos y)-\sin ^2y \\ &= 2\cos ^2y+\cos y-1 \\ &= (\cos y+1)(2\cos y-1) \end{aligned}\] であり, $0 < y < \pi$ から $\cos y+1 > 0$ であるので, \[\begin{aligned} g'(y) \geqq 0 &\iff 2\cos y-1 \geqq 0 \\ &\iff \cos y \geqq \frac{1}{2} \iff y \leqq \frac{\pi}{3}, \\ g'(y) \leqq 0 &\iff y \geqq \frac{\pi}{3}, \\ \end{aligned}\] が成り立つ.
$x$ $0$ $\cdots$ $\dfrac{\pi -y}{2}$ $\cdots$ $\pi$ $f'(x)$ $+$ $0$ $-$ $f(x)$ $\nearrow$ 極大 $\searrow$ よって, $g(y)$ は $y = \dfrac{\pi}{3}$ の場合に限って, 極大かつ最大の値 \[\begin{aligned} g\left(\frac{\pi}{3}\right) &= \sin\frac{\pi}{3}\left( 1+\cos\frac{\pi}{3}\right) \\ &= \frac{\sqrt 3}{2}\left( 1+\frac{1}{2}\right) = \frac{3\sqrt 3}{4} \end{aligned}\] をとる. このとき, \[ x = \frac{\pi-y}{2} = \frac{\pi}{3}, \quad z = \pi -x-y = \frac{\pi}{3}\] である. ゆえに, $x = y = z = \dfrac{\pi}{3}$ のとき, $S$ は最大値 $\dfrac{3\sqrt 3}{4}$ をとる.$y$ $0$ $\cdots$ $\dfrac{\pi}{3}$ $\cdots$ $\pi$ $g'(y)$ $+$ $0$ $-$ $g(y)$ $\nearrow$ 極大 $\searrow$
クイズ《与えられた辺長をもつ最大の四角形》
与えられた正の数 $a,$ $b,$ $c,$ $d$ を $4$ 辺の長さとする四角形のうち面積が最大であるのはどのような四角形か.
(有名問題)
答え
円に内接する四角形.
解説
四角形 $\mathrm{ABCD}$ において, $a = \mathrm{AB},$ $b = \mathrm{BC},$ $c = \mathrm{CD},$ $d = \mathrm{DA},$ $\theta = \angle\mathrm{ABC},$ $\varphi = \angle\mathrm{CDA}$ とおき, 面積を $S$ とおく.
このとき,
\[ S = \frac{1}{2}ab\sin\theta +\frac{1}{2}cd\sin\varphi\]
が成り立つ.
$S$ を $\theta$ で微分すると,
\[\frac{dS}{d\theta} = \frac{1}{2}ab\cos\theta +\frac{1}{2}cd\cos\varphi\frac{d\varphi}{d\theta} \quad \cdots [1]\]
となる.
ここで, 余弦定理により
\[\mathrm{AC}^2 = a^2+b^2-2ab\cos\theta = c^2+d^2-2cd\cos\varphi\]
となるから, 両辺を $\theta$ で微分すると
\[ 2ab\sin\theta = 2cd\sin\varphi\frac{d\varphi}{d\theta} \quad \cdots [2]\]
となる.
$[2]$ を使って $[1]$ の $\dfrac{d\varphi}{d\theta}$ を消去して整理すると,
\[\frac{dS}{d\theta} = \frac{ab}{2\sin\varphi}\sin (\theta +\varphi )\]
が得られる.
$0 < \varphi < \pi,$ $0 < \theta +\varphi < 2\pi$ から,
\[\begin{aligned}
\frac{dS}{d\theta} \geqq 0 &\iff \theta +\varphi \leqq \pi, \\
\frac{dS}{d\theta} \leqq 0 &\iff \theta +\varphi \geqq \pi
\end{aligned}\]
が成り立つ.
よって, $S$ は $\theta +\varphi = \pi$ のとき, 極大かつ最大の値をとる.
ゆえに, 四角形が円に内接するとき, 四角形の面積は最大になる.
クイズ《円に内接する周長最大の $n$ 角形》
$n$ を $3$ 以上の整数とする.
与えられた円に内接する $n$ 角形のうち周の長さが最大であるのはどのような $n$ 角形か.
(ヒント: 次の $\sin x$ に関する「イェンゼンの不等式」を利用する:
$n$ を $2$ 以上の整数とし, $t_1,$ $\cdots,$ $t_n > 0,$ $t_1+\cdots +t_n = 1$ とする.
$x_1,$ $\cdots,$ $x_n \in (0,\pi )$ のとき,
\[\sin\left(\sum_{k = 1}^nt_kx_k\right) \geqq \sum_{k = 1}^nt_k\sin x_k\]
が成り立ち, 等号成立は $x_1 = \cdots = x_n$ の場合に限る.)
(有名問題, 参考: $2022$ 大阪公立大)
答え
正 $n$ 角形.
解説
- (1)
- 単位円に内接する $n$ 角形 $\mathrm P_1\cdots\mathrm P_n$ の周の長さ $L$ について考えれば十分である. $\mathrm P_{n+1} = \mathrm P_1$ として, $\theta _k = \angle\mathrm P_k\mathrm{OP}_{k+1}$ とおく. $\sin x$ に関する「イェンゼンの不等式」により \[\begin{aligned} L &= \sum_{k = 1}^n\mathrm P_k\mathrm P_{k+1} = \sum_{k = 1}^n2\sin\frac{\theta _k}{2} = 2n\sum_{k = 1}^n\frac{1}{n}\sin\frac{\theta _k}{2} \\ &\leqq 2n\sin\left(\sum_{k = 1}^n\frac{1}{n}\cdot\frac{\theta _k}{2}\right) = 2n\sin\frac{\pi}{n} \end{aligned}\] であり, 等号成立は $\dfrac{\theta _1}{2} = \cdots = \dfrac{\theta _n}{2}$ の場合に限るから, 単位円に内接する $n$ 角形のうち周の長さ $L$ が最大になるものは正 $n$ 角形である.
- (2)
- $\sin x$ に関する「イェンゼンの不等式」を示す.
- (i)
- $n = 2$ のとき. $x_2$ を定数とみなして, $0 < x_1 < \pi$ の範囲で $x_1$ の関数 \[ f(x_1) = \sin (t_1x_1+t_2x_2)-t_1\sin x_1-t_2\sin x_2\] を考える. \[ f'(x_1) = t_1\{\cos (t_1x_1+t_2x_2)-\cos x_1\}\] であり, $\cos x$ $(0 < x < \pi )$ は単調減少であるから, $t_1x_1+t_2x_2 \leqq x_1$ つまり $x_1 \geqq x_2$ のとき $f'(x_1) \geqq 0$ であり, $t_1x_1+t_2x_2 \geqq x_1$ つまり $x_1 \leqq x_2$ のとき $f'(x_1) \leqq 0$ である. よって, $f(x_1) \geqq f(x_2) = 0$ であるから, \[\sin (t_1x_1+t_2x_2) \geqq t_1\sin x_1+t_2\sin x_2 \quad (0 < x_1 < \pi )\] が成り立ち, 等号成立は $x_1 = x_2$ の場合に限る.
- (ii)
- $n = m$ ($m$: $2$ 以上の整数) のとき不等式と等号成立条件が成り立つとする. $n = m+1$ の場合に, $s = t_1+\cdots +t_m$ とおく. \[ u_k = \frac{t_k}{s} \quad (1 \leqq k \leqq m)\] とおくと, \[\begin{aligned} &\sin\left(\sum_{k = 1}^{m+1}t_kx_k\right) \\ &= \sin\left(\sum_{k = 1}^mt_kx_k+t_{m+1}x_{m+1}\right) \\ &= \sin\left( s\sum_{k = 1}^mu_kx_k+t_{m+1}x_{m+1}\right) \\ &\geqq s\sin\left(\sum_{k = 1}^mu_kx_k\right) +t_{m+1}\sin x_{m+1} \quad (\because\text{(i)}) \\ &\geqq s\sum_{k = 1}^mu_k\sin x_k+t_{m+1}\sin x_{m+1} \\ &= \sum_{k = 1}^{m+1}t_k\sin x_k \end{aligned}\] が得られる. 等号成立は, “ $\displaystyle\sum\limits_{k = 1}^mu_kx_k = x_{m+1},$ $x_1 = \cdots = x_m$ ” つまり $x_1 = \cdots = x_m = x_{m+1}$ の場合に限る.
参考
与えられた円に内接する $n$ 角形のうち面積が最大である $n$ 角形は正 $n$ 角形であることも, $\sin x$ に関する「イェンゼンの不等式」を利用して, 次のように証明できる.
単位円に内接する $n$ 角形 $\mathrm P_1\cdots\mathrm P_n$ の面積 $S$ について考えれば十分である.
$\mathrm P_{n+1} = \mathrm P_1$ として, $\theta _k = \angle\mathrm P_k\mathrm{OP}_{k+1}$ とおく.
$\sin x$ に関する「イェンゼンの不等式」により
\[\begin{aligned}
S &= \sum_{k = 1}^n\triangle\mathrm{OP}_k\mathrm P_{k+1} = \sum_{k = 1}^n\frac{1}{2}\sin\theta _k = \frac{n}{2}\sum_{k = 1}^n\frac{\sin\theta _k}{n} \\
&\leqq \frac{n}{2}\sin\left(\sum_{k = 1}^n\frac{\theta _k}{n}\right) = \frac{n}{2}\sin\frac{2\pi}{n}
\end{aligned}\]
であり, 等号成立は $\theta _1 = \cdots = \theta _n$ の場合に限るから,
単位円に内接する $n$ 角形のうち面積 $S$ が最大になるものは正 $n$ 角形である.
その他の計量に関するクイズ
クイズ《紙が重なった部分の面積の最小値》
正方形の紙を $2$ 本の対角線の交点を通る直線で折り, 紙が重なった部分の面積が最小になるようにするとき, その面積が紙全体の面積に占める割合はいくらか.
(有名問題)
答え
$\sqrt 2-1 = 0.41421\cdots.$
解説
$1$ 辺の長さが $1$ の正方形 $\mathrm{ABCD}$ の形をした紙を考える.
その対角線の交点を $\mathrm O,$ 辺 $\mathrm{AB}$ の中点を $\mathrm M$ とおく.
対称性により, $\mathrm O$ を通り $\mathrm{AM}$ と共有点をもつ直線 $l$ で折る場合について考えれば十分である.
$l$ と $\mathrm{AB}$ の交点を $\mathrm E$ とおき, $l$ に関して $\mathrm A,$ $\mathrm D$ と対称な点を $\mathrm A',$ $\mathrm D'$ とおく.
さらに, $\theta = \angle\mathrm{MOE}$ とおいて, 紙が重なった部分の面積を $S$ とおく.
このとき, $0 \leqq \theta \leqq \dfrac{\pi}{4}$ となる.
$0 < \theta \leqq \dfrac{\pi}{4}$ のとき, $\mathrm{AB},$ $\mathrm A'\mathrm D'$ の交点を $\mathrm F$ とおくと,
対称性と
\[\begin{aligned}
\mathrm{OE} &= \frac{\mathrm{OM}}{\cos\theta} = \frac{1}{2\cos\theta}\ \left(\because\mathrm{OM} = \dfrac{1}{2}\right), \\
\mathrm{OF} &= \frac{\mathrm{OM}}{\cos\left(\dfrac{\pi}{4}-\theta\right)} = \frac{1}{2\cos\left(\dfrac{\pi}{4}-\theta\right)}
\end{aligned}\]
であることから,
\[\begin{aligned}
S &= 4\triangle\mathrm{OEF} = 4\cdot\frac{1}{2}\mathrm{OE}\cdot\mathrm{OF}\sin\frac{\pi}{4}\ \left(\because\angle\mathrm{EOF} = \frac{\pi}{4}\right) \\
&= \frac{1}{2\sqrt 2\cos\theta\cos\left(\dfrac{\pi}{4}-\theta\right)} \quad \cdots [1]
\end{aligned}\]
が得られる.
これは $\theta = 0$ のときにも成り立つ.
$0 \leqq \theta \leqq \dfrac{\pi}{4}$ として, 積和の公式により $[1]$ を変形すると,
\[\begin{aligned}
S &= \frac{1}{\sqrt 2\left\{\cos\dfrac{\pi}{4}+\cos\left( 2\theta -\dfrac{\pi}{4}\right)\right\}} \\
&= \frac{1}{1+\sqrt 2\cos\left( 2\theta -\dfrac{\pi}{4}\right)}
\end{aligned}\]
が得られる.
ゆえに, $S$ は $2\theta -\dfrac{\pi}{4} = 0$ つまり $\theta = \dfrac{\pi}{8}$ のとき最小値 $\dfrac{1}{1+\sqrt 2} = \sqrt 2-1$ をとるから, 求める割合は
\[ (\sqrt 2-1)\div 1 = \sqrt 2-1\]
である.
参考
紙が重なった部分は, 面積が最小の場合, 正八角形を最も長い対角線で半分に折った図形である.
つまり, 紙が重なっていない部分を取り除き, 折り目をもとに戻すと, 正八角形ができる.