有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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記述式答案の書き方

よくある誤り

  • 符号の誤り.
  • 不等号の向きの誤り (手書きでない場合に多い).
  • $dx$ などの脱字.
  • 「$\iff$」の誤用:「$\iff$」を接続詞「すなわち」「つまり」の代わりに用いる用法はない.
    悪い例
    $\triangle\mathrm{ABC}$ において $\angle\mathrm A$ が鋭角である条件は, \[\cos\angle\mathrm A > 0 \iff \mathrm{BC}^2 < \mathrm{CA}^2+\mathrm{AB}^2\] である.
    (条件が「$\cdots \iff \cdots$」になってしまう.)
    良い例
    $\triangle\mathrm{ABC}$ において $\angle\mathrm A$ が鋭角である条件は, \[\cos\angle\mathrm A > 0 \quad \therefore\mathrm{BC}^2 < \mathrm{CA}^2+\mathrm{AB}^2\] である.
  • 「$\Longrightarrow$」の誤用, 三段論法の無理な省略:「$\Longrightarrow$」を接続詞「よって」「したがって」の代わりに用いる用法はない. また, 三段論法により「$p$」と「$p \Longrightarrow q$」が真であることを示せば「$q$」が真であると示されるが, これを省略して「$p \Longrightarrow q$」が成り立つことだけを述べても「$q$」が成り立つことを述べたことにはならない (「$p$」「$q$」「$p \iff q$」の真偽は等しいとは限らない).
  • 「排反」の誤用:「排反」は事象に対して定義される用語であるから, 確率が登場しない場合の数の問題で使うのは不適当である.

避けた方がよい表現

  • 従属変数 $x$ に対して「$x$ を〈数の種類〉として」: 変数 $x$ の値が変数 $t_1,$ $\cdots,$ $t_n$ の値に依存して定まるとき, $x$ を従属変数と呼ぶ. 従属変数 $x$ は任意に値を決められず,〈数の種類〉のみでは特定できないため,「$x$ を実数として」「$x$ を整数として」のような表現は避けるべきである (市販の参考書, 問題集だけでなく, 検定済教科書でもかなり多くの誤りが見受けられる). 変数の値が任意に決められるか, それとも何かに依存して決まるかという観点 (変数の独立性) は, 論理の基本である.
    悪い例
    偶数 $n$ は $k$ を整数として $n = 2k$ と表される.
    (偶数 $n$ が先に与えられており, $n$ を $2$ で割った商 $k$ は自由に決められないため,「として」という表現は論理的に不適当.)
    良い例
    偶数 $n$ は整数 $k$ を用いて $n = 2k$ と表される.
  • 「題意」:「問題文の条件」の意味で使うのは避けた方がよい (特に定理の証明). 「題意」の本来の意味は「出題の意図」であり, この表現を使って不変の真理 (歴史的事実は別として, 出題者とは独立に存在) に関する議論を行うのはふさわしくないからである.
  • 無条件で「~となる」「~になる」:「~ならば」「~のとき」「~すると」などの条件なしに,「~となる」「~になる」のような述語を使うのは不適当である. 「~となる」「~になる」は解答のステップに焦点を当てた主観的な立場で使われることがあるが (中学数学の解説などで多い), この表現は不変の真理 (解答者とは独立に存在) を述べる言葉としてふさわしくないからである. 数学の答案では, できるだけ客観的な表現を心掛けたい.
  • 一部の者にしか通じない造語: 例えば,「三角不等式」という語を “ 三角関数を含む不等式 ” の意味で使うのは好ましくない. これは一部の参考書や塾でのみ通用する語であり,「三角不等式」は絶対値に関する不等式 $|x|+|y| \geqq |x+y|$ や $2$ 点間の距離 $d(\mathrm P,\mathrm P')$ に関する不等式 $d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')$ を指す語として定着しているからである.
  • 等式・不等式の直前での主格の助詞の無理な省略: 主語に等式・不等式が続く場合, 等号・不等号に主格の助詞「は」「が」の意味を持たせて,「は」「が」を省略するのは好ましくない. これは, 主語と等式・不等式の左辺の同格表現とみなしても, 等式の一部に単語・熟語が含まれ, 等式の場合には等しいものが同格と等号の異なるもので結ばれることになり, 不自然である.
    悪い例
    $1$ 辺の長さ $a = 1$ である.
    (主語が読み取りづらく,「$1$ 辺の長さ $a = 1$」を $1$ つの等式とみなすにも無理があるため, 好ましくない.)
    良い例
    ($a$ が未定義の場合) $1$ 辺の長さ $a$ は $a = 1$ である.
    ($a$ が定義済の場合) $1$ 辺の長さは $a = 1$ である.

計算の省略

 数学の解答では適宜, 途中の計算が省略される. 解答とは, 解を導く過程すべてを記述するものではないということに注意されたい. もちろん解答を完全に理解するには, 省略された部分を含めて, すべての計算を計算用紙の上か頭の中かで行わなければならない. 省略される計算は, 加減乗除の計算, 多項式の展開・因数分解などさまざまであるが, 原則として基礎的で計算方法が明らかなものに限る. このような部分の記述量を減らすことで, 主要な部分・難しい部分を強調するという意図がある.
 数学の書籍を読む上でも, 多くの人は途中の計算を自力で補うための訓練が必要である. そのためにも, 教科書の問題等で, 基礎的な計算練習を十分に積まれるようにお勧めしたい.