既約多項式
既約多項式
$A$ を単位的可換環とする.
定義《既約多項式》
- (1)
- 定数でない $A$ 上の多項式 $f(x)$ が定数と $f(x)$ の定数倍を除く $A$ 上のすべての多項式で割り切れないとき, $f(x)$ は $A$ 上既約 (irreducible) であるという.
- (2)
- $A$ 上既約でない多項式は, 可約 (reducible) であるという.
例《既約多項式》
- (1)
- $A$ 上の $1$ 次多項式は $A$ 上既約である.
- (2)
- $x^2-2$ が $x^2-2 = (ax+b)(cx+d)$ ($a,$ $b,$ $c,$ $d$: 定数) と因数分解できるとすると, $\sqrt 2 = -\dfrac{b}{a}$ または $\sqrt 2 = -\dfrac{d}{c}$ となり, $\sqrt 2$ が無理数であることにより $a,$ $b,$ $c,$ $d$ は有理数とはならないので, $x^2-2$ は有理数体 $\mathbb Q$ 上既約である.
- (3)
- $x^2-1 = (x+1)(x-1)$ は $A$ 上可約である.
定理《多項式の既約分解》
体 $K$ 上の定数でないすべての多項式 $f(x)$ は, $K$ 上の既約多項式 $f_1(x),$ $\cdots,$ $f_r(x)$ の積に
\[ f(x) = f_1(x)\cdots f_r(x) \quad \cdots [1]\]
と分解することができる.
この表示は, $f_1(x),$ $\cdots,$ $f_r(x)$ の順序と定数倍の違いを除いてただ $1$ 通りである.
証明
分解の可能性: 体 $K$ 上の定数でない多項式 $f(x)$ は, $K$ 上可約であれば, より次数の低い $K$ 上の多項式 $g(x),$ $h(x)$ の積 $f(x) = g(x)h(x)$ に分解される.
$g(x),$ $h(x)$ は, 可約であれば, より次数の低い $K$ 上の多項式の積に分解される.
この操作を繰り返せば, $f(x)$ は高々 $\deg f(x)$ 個の $K$ 上の多項式 $f_1(x),$ $\cdots,$ $f_r(x)$ の積に分解され, どれもより次数の低い多項式の積に分解できなくなる.
このとき $f_1(x),$ $\cdots,$ $f_r(x)$ は $K$ 上既約であるから, $f(x)$ は $K$ 上の既約多項式の積 $[1]$ に分解できる.
分解の一意性: $f(x)$ が体 $K$ 上の既約多項式 $g_1(x),$ $\cdots,$ $g_s(x)$ の積 $f(x) = g_1(x)\cdots g_s(x)$ にも分解できたとする. $r,$ $s > 1$ のとき, \[ f_1(x)\cdots f_r(x) = g_1(x)\cdots g_s(x)\] が成り立ち, 右辺は既約多項式 $f_r(x)$ で割り切れるから, 補題によりある $g_j(x)$ $(1 \leqq j \leqq s)$ は $f_r(x)$ で割り切れる. よって, 必要に応じて番号をつけ替えると, $f_r(x) = c_rg_s(x)$ $(c_r \in K)$ となる. このとき, \[ f_1(x)\cdots f_{r-1}(x) = c_rg_1(x)\cdots g_{s-1}(x)\] となるから, 必要に応じて番号をつけ替えながら同様の操作を続けると, \[ r = s, \quad f_j(x) = c_jg_j(x) \quad (c_j \in K)\] となる. ここで, $r = s$ となるのは, 既約多項式の積が定数となることはないからである. ゆえに, 表示 $[1]$ は, 順序と定数倍の違いを除いてただ $1$ 通りである.
分解の一意性: $f(x)$ が体 $K$ 上の既約多項式 $g_1(x),$ $\cdots,$ $g_s(x)$ の積 $f(x) = g_1(x)\cdots g_s(x)$ にも分解できたとする. $r,$ $s > 1$ のとき, \[ f_1(x)\cdots f_r(x) = g_1(x)\cdots g_s(x)\] が成り立ち, 右辺は既約多項式 $f_r(x)$ で割り切れるから, 補題によりある $g_j(x)$ $(1 \leqq j \leqq s)$ は $f_r(x)$ で割り切れる. よって, 必要に応じて番号をつけ替えると, $f_r(x) = c_rg_s(x)$ $(c_r \in K)$ となる. このとき, \[ f_1(x)\cdots f_{r-1}(x) = c_rg_1(x)\cdots g_{s-1}(x)\] となるから, 必要に応じて番号をつけ替えながら同様の操作を続けると, \[ r = s, \quad f_j(x) = c_jg_j(x) \quad (c_j \in K)\] となる. ここで, $r = s$ となるのは, 既約多項式の積が定数となることはないからである. ゆえに, 表示 $[1]$ は, 順序と定数倍の違いを除いてただ $1$ 通りである.
補題《既約多項式は素元》
$p(x)$ を体 $K$ 上の既約多項式とする.
このとき, $K$ 上のすべての多項式 $f(x),$ $g(x)$ に対して, $f(x)g(x)$ が $p(x)$ の倍多項式ならば, $f(x)$ または $g(x)$ は $p(x)$ の倍多項式である.
証明
$f(x)g(x)$ が $p(x)$ の倍多項式であり, $f(x)$ が $p(x)$ の倍多項式でないとすると,
$f(x),$ $p(x)$ は互いに素であるから, $sf(x)+tp(x) = 1$ を満たす $K$ 上の多項式 $s,$ $t$ が存在する.
よって, $g(x) = sf(x)g(x)+tg(x)p(x)$ は $p(x)$ の倍多項式である.
定理《ガウスの補題》
$\mathbb Z$ 上既約な多項式は $\mathbb Q$ 上でも既約である.
証明
対偶を示す.
つまり, $f(x)$ が $\mathbb Q$ 上可約であるとして, $\mathbb Z$ 上可約であることを示す.
$\mathbb Z$ 上の多項式 $f(x)$ が $\mathbb Q$ 上の定数でない多項式 $g(x),$ $h(x)$ の積に
\[ f(x) = g(x)h(x)\]
と分解されるとする.
ある $0$ でない整数 $s,$ $t$ に対して $sg(x),$ $th(x)$ は $\mathbb Z$ 上の多項式になる.
各多項式 $f(x),$ $sg(x),$ $th(x)$ において係数の最大公約数を $a,$ $b,$ $c$ とおき,
\[\begin{aligned}
f_0(x) &= \frac{1}{a}f(x), \\
g_0(x) &= \frac{s}{b}g(x) = b_lx^l+\cdots +b_1x+b_0, \\
h_0(x) &= \frac{t}{c}h(x) = c_mx^m+\cdots +c_1x+c_0
\end{aligned}\]
とおく.
このとき, $g_0(x),$ $h_0(x)$ の係数の最大公約数は $1$ である.
$g_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数も $1$ であることを示す. $p$ を任意の素数とする. $g_0(x),$ $h_0(x)$ において, すべての係数が $p$ で割り切れることはないから, $p$ で割り切れない次数最小の項を $b_ix^i,$ $c_jx^j$ とする. このとき, \[ b_0c_{i+j}+\cdots +b_{i-1}c_{j+1}+b_ic_j+b_{i+1}c_{j-1}+\cdots +b_{i+j}c_0\] において $b_ic_j$ 以外の項は $p$ で割り切れ, $b_ic_j$ は $p$ で割り切れないから, $g_0(x)h_0(x)$ の $i+j$ 次の項の係数は $p$ で割り切れない. よって, $g_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数は $1$ である.
$af_0(x) = f(x) = g(x)h(x) = \dfrac{b}{s}g_0(x)\dfrac{c}{t}h_0(x)$ から \[ astf_0(x) = bcg_0(x)h_0(x)\] が成り立つが, 各多項式 $f_0(x),$ $g_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数は $1$ であることから, 各多項式 $astf_0(x),$ $bcg_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数は $ast,$ $bc$ である.
したがって, 素因数分解の一意性により $\dfrac{bc}{ast} = \pm 1$ であり, \[ f(x) = a\cdot\dfrac{bc}{ast}g_0(x)h_0(x) = \pm ag_0(x)\cdot h_0(x)\] から, $f(x)$ は $\mathbb Z$ 上の多項式 $\pm ag_0(x),$ $h_0(x)$ の積に分解できる.
ゆえに, $f(x)$ は $\mathbb Z$ 上可約である.
$g_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数も $1$ であることを示す. $p$ を任意の素数とする. $g_0(x),$ $h_0(x)$ において, すべての係数が $p$ で割り切れることはないから, $p$ で割り切れない次数最小の項を $b_ix^i,$ $c_jx^j$ とする. このとき, \[ b_0c_{i+j}+\cdots +b_{i-1}c_{j+1}+b_ic_j+b_{i+1}c_{j-1}+\cdots +b_{i+j}c_0\] において $b_ic_j$ 以外の項は $p$ で割り切れ, $b_ic_j$ は $p$ で割り切れないから, $g_0(x)h_0(x)$ の $i+j$ 次の項の係数は $p$ で割り切れない. よって, $g_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数は $1$ である.
$af_0(x) = f(x) = g(x)h(x) = \dfrac{b}{s}g_0(x)\dfrac{c}{t}h_0(x)$ から \[ astf_0(x) = bcg_0(x)h_0(x)\] が成り立つが, 各多項式 $f_0(x),$ $g_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数は $1$ であることから, 各多項式 $astf_0(x),$ $bcg_0(x)h_0(x)$ の係数の最大公約数は $ast,$ $bc$ である.
したがって, 素因数分解の一意性により $\dfrac{bc}{ast} = \pm 1$ であり, \[ f(x) = a\cdot\dfrac{bc}{ast}g_0(x)h_0(x) = \pm ag_0(x)\cdot h_0(x)\] から, $f(x)$ は $\mathbb Z$ 上の多項式 $\pm ag_0(x),$ $h_0(x)$ の積に分解できる.
ゆえに, $f(x)$ は $\mathbb Z$ 上可約である.
定理《アイゼンシュタインの既約判定法》
ある素数 $p$ に対して,
- (E1)
- 最高次の項の係数が $p$ で割り切れる
- (E2)
- それ以外の係数が $p$ で割り切れる
- (E3)
- 定数項が $p^2$ で割り切れない
証明
ガウスの補題により, 条件を満たす整数係数 $n$ 次多項式
\[ f(x) = a_nx^n+\cdots +a_1x+a_0\]
が $\mathbb Z$ 上既約であることを示せばよい.
整数係数多項式
\[\begin{aligned}
g(x) &= b_lx^l+\cdots +b_1x+b_0, \\
h(x) &= c_mx^m+\cdots +c_1x+c_0
\end{aligned}\]
について
\[ f(x) = g(x)h(x)\]
が成り立つとして, $g(x)$ または $h(x)$ が定数になることを示す.
条件により, $a_0 = b_0c_0$ は $p$ で割り切れて $p^2$ で割り切れないから, $b_0$ が $p$ で割り切れて $c_0$ が $p$ で割り切れないとしても一般性を失わない.
また, $g(x)$ において, 係数がすべて $p$ で割り切れることはないから, 係数が $p$ で割り切れない次数最小の項を $b_kx^k$ とする.
このとき,
\[ a_k = b_0c_k+\cdots +b_{k-1}c_1+b_kc_0\]
において $b_kc_0$ 以外の項は $p$ で割り切れて $b_kc_0$ は $p$ で割り切れないから, $a_k$ は $p$ で割り切れない.
条件により, $a_k = a_n$ であるから, $k = n$ となり, $l = n,$ $m = 0$ となる.
よって, $h(x)$ は定数となる.
一般に, この定理は一意分解整域 $A$ とその分数体 $K,$ および $A$ の素元 $p$ に対して成り立つ.
最小多項式
定義《最小多項式》
$\alpha$ を根にもつ体 $K$ 上のモニック多項式のうち, 次数最小の多項式を $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式 (minimal polynomial) と呼ぶ.
例《最小多項式》
- (1)
- 任意の体 $K$ に対して, $a \in K$ のとき, $a$ の $K$ 上の最小多項式は $x-a$ である.
- (2)
- $\sqrt{-1}$ の $\mathbb R$ 上の最小多項式は $x^2+1$ である.
実際, 実数係数多項式 $f(x)$ が $f(\sqrt{-1}) = 0$ を満たすとする. $f(x)$ を $x^2+1$ で割った商を $q(x),$ 余りを $ax+b$ $(a,b \in \mathbb R)$ とおく. つまり, $f(x) = (x^2+1)q(x)+ax+b$ とする. ここに $x = \sqrt{-1}$ を代入すると, $f(\sqrt{-1}) = 0$ から \[\begin{aligned} f(\sqrt{-1}) &= ((\sqrt{-1})^2+1)q(\sqrt{-1})+a\sqrt{-1}+b \\ 0 &= 0\cdot q(\sqrt{-1})+a\sqrt{-1}+b \\ 0 &= a\sqrt{-1}+b \end{aligned}\] となるので, $a = b = 0$ となる.
よって, $f(\sqrt{-1}) = 0$ を満たす多項式 $f(x)$ は $x^2+1$ で割り切れるから, $x^2+1$ は $\sqrt{-1}$ を根にもつ実数係数多項式のうち次数最小のものである.
定理《最小多項式の特徴付け》
体 $K$ 上のモニック多項式 $f(x)$ に対して
が成り立つ.
$f(x)$ が $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式 |
$\iff$ $f(\alpha ) = 0$ かつ $f(x)$ は $K$ 上既約 |
証明
$f(x)$ を $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式とする.
$(\Longrightarrow )$ は, $f(\alpha ) = 0$ と, 次数の最小性により $f(x)$ が既約であることから従う.
$(\Longleftarrow )$ を示す. $K$ 上のモニック多項式 $g(x)$ が $g(\alpha ) = 0$ を満たし, 既約であるとする. このとき, $g(x)$ を $f(x)$ で割った商を $q(x),$ 余りを $r(x)$ とおく. つまり,
であるとする.
$x$ に $\alpha$ を代入すると
\[\begin{aligned}
g(\alpha ) &= f(\alpha )q(\alpha )+r(\alpha ) \\
0 &= 0\cdot q(\alpha )+r(\alpha ) \\
0 &= r(\alpha )
\end{aligned}\]
となる.
$f(x)$ の次数の最小性により
となるが, $g(x)$ が $K$ 上既約なモニック多項式であることから
となる.
これで, 定理が示された.
$(\Longrightarrow )$ は, $f(\alpha ) = 0$ と, 次数の最小性により $f(x)$ が既約であることから従う.
$(\Longleftarrow )$ を示す. $K$ 上のモニック多項式 $g(x)$ が $g(\alpha ) = 0$ を満たし, 既約であるとする. このとき, $g(x)$ を $f(x)$ で割った商を $q(x),$ 余りを $r(x)$ とおく. つまり,
$g(x) = f(x)q(x)+r(x),$ |
$r(x) = 0$ または $\deg r(x) < \deg f(x)$ |
$r(x) = 0$ よって $g(x) = f(x)q(x)$ |
$q(x) = 1$ よって $g(x) = f(x)$ |
これで, 定理が示された.
高校数学の問題
数と式
問題《アイゼンシュタイン多項式》
$n$ を $2$ 以上の整数, $p$ を素数, $a_0,$ $\cdots,$ $a_{n-1}$ を $p$ の倍数とする.
多項式
\[ f(x) = x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0\]
について, 次が成り立つことを示せ.
- (1)
- $f(x) = 0$ が整数解 $\alpha$ をもつ $\Longrightarrow$ $\alpha$ は $p$ で割り切れる.
- (2)
- $a_0$ が $p^2$ で割り切れない $\Longrightarrow$ $f(x) = 0$ は整数解をもたない.
(参考: $1996$ 京都大)
解答例
こちらを参照.