有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

数式を枠からはみ出さずに表示するためには, 画面を横に傾けてください.

自然数

自然数モノイドの存在

定理《自然数全体からなる集合の存在》

 次のペアノの公理 (P1)~(P5) を満たす集合 $\mathbb N$ が存在する.
(P1)
$\mathbb N$ の元 $0$ が与えられている.
(P2)
写像 $s:\mathbb N\to\mathbb N$ が与えられている.
(P3)
$0 \notin s(\mathbb N)$ である. つまり, $n \in \mathbb N \Longrightarrow s(n) \neq 0$ が成り立つ.
(P4)
$s$ は単射である. つまり, $m,$ $n \in \mathbb N,$ $m \neq n$ $\Longrightarrow$ $s(m) \neq s(n)$ が成り立つ.
(P5)
$A \subset \mathbb N,$ $0 \in A,$ $s(A) \subset A$ $\Longrightarrow$ $A = \mathbb N$ が成り立つ (数学的帰納法の原理).

証明の概略

 次の「無限公理」を用いる: \[ A \neq \varnothing, \quad a \in A \Longrightarrow a\cup\{ a\} \in A\] を満たす集合 $A$ が存在する.
 この $A$ の部分集合 $B$ のうち \[ B \neq \varnothing, \quad b \in B \Longrightarrow b\cup\{ b\} \in B\] を満たすものすべての共通部分を $\mathbb N$ とし, $0 = \varnothing$ とおき, 写像 $s:\mathbb N\to\mathbb N$ を \[ s(n) = n\cup\{ n\} \quad (n \in \mathbb N)\] で定めると, $\mathbb N$ は (P1)~(P5) を満たすことが確認できる.

定義《自然数》

 上記の定理において, $\mathbb N$ の元を自然数と呼び, 特に $s(0) = 1$ と定める. また, 各自然数 $n$ に対して $s(n)$ を $n+1$ で表す.

定義《自然数の加法, 乗法》

 $\mathbb N$ の加法, 乗法をそれぞれ \[\begin{aligned} m+0 &= m, & m+(n+1) &= (m+n)+1, \\ m\cdot 0 &= 0, & m\cdot (n+1) &= m\cdot n+m \end{aligned} \quad (m,\ n \in \mathbb N)\] で定める. $m\cdot n$ を $mn$ でも表す.

注意

 $\mathbb N$ の加法, 乗法の定義には, 数学的帰納法の原理 (P5) から導かれる, 次の定理が利用されている.
 $A$ を集合, $a$ を $A$ の元, $\varphi :A\to A$ を写像とする. このとき, \[ f(1) = a, \quad f(n+1) = \varphi (f(n)) \quad (n \in \mathbb N)\] を満たす写像 $f:\mathbb N\to A$ が一意的に存在する.
 この定理を利用した写像の定義を再帰的定義という.

定理《自然数の加法, 乗法の性質》

 任意の自然数 $a,$ $b,$ $c$ に対して,
(N1)
$(a+b)+c = a+(b+c)$ (加法の結合法則)
(N2)
$0+a = a+0 = a$ (加法に関する単位元の性質)
(N3)
$a+b = b+a$ (加法の交換法則)
(N4)
$(ab)c = a(bc)$ (乗法の結合法則)
(N5)
$1\cdot a = a\cdot 1 = a$ (乗法に関する単位元の性質)
(N6)
$c(a+b) = ca+cb,$ $(a+b)c = ac+bc$ (分配法則)
(N7)
$a = b \iff a+c = b+c,$ (加法の簡約法則)
$c \neq 0$ のとき, $a = b \iff ca = cb$ (乗法の簡約法則)
が成り立つ.

自然数の大小関係

定義《自然数の大小関係》

 自然数 $a,$ $b$ の大小関係
$a \leqq b$ $\iff$ ある $\mathbb N$ の元 $c$ に対して $b = a+c$
で定める.

定理《自然数の整列性》

 集合 $A$ が空集合でないとき,
$A \subset \mathbb N$ $\Longrightarrow$ $A$ の最小値が存在
が成り立つ.

定理《自然数の大小関係の性質》

 $\mathbb N$ は大小関係に関して全順序集合をなす. また, 任意の自然数 $a,$ $b,$ $c$ に対して,
(O1)
$a < b \iff a+c < b+c$ (順序と加法の両立性)
(O2)
$c > 0$ のとき, $a < b \iff ca < cb$ (順序と乗法の両立性)
が成り立つ.