導多項式
導多項式
以下, $K$ を有理数全体, 実数全体, または複素数全体の集合とし, $K$ の要素を係数とする多項式を $K$ 上の多項式と呼ぶ.
定義《導多項式》
$f(x) = \displaystyle\sum_{k = 0}^na_kx^k$ を $K$ 上の多項式とする.
- (1)
- 多項式 $\displaystyle\sum_{k = 1}^nka_kx^{k-1}$ を $f(x)$ の導多項式 (derivative) と呼び, $\{ f(x)\}',$ $f'(x)$ または $\dfrac{d}{dx}f(x)$ で表す.
- (2)
- $f^{(0)}(x) = f(x)$ と $f^{(m+1)}(x) = \{ f^{(m)}(x)\}',$ $\dfrac{d^{m+1}}{dx^{m+1}}f(x) = \dfrac{d}{dx}\left\{\dfrac{d^m}{dx^m}f(x)\right\}$ で $f(x)$ の $m$ 階導多項式 $f^{(m)}(x),$ $\dfrac{d^m}{dx^m}f(x)$ を順次定める.
定理《和・差・積の導多項式》
$K$ 上の多項式 $f(x),$ $g(x)$ と定数 $a \in K$ に対して,
\[\begin{aligned}
\{ f(x)\pm g(x)\}' &= f'(x)\pm g'(x) \quad (\text{複号同順}), \\
\{ f(x)g(x)\}' &= f'(x)g(x)+f(x)g'(x), \\
\{ af(x)\}' &= af'(x)
\end{aligned}\]
が成り立つ.
定理《多項式の合成の導多項式》
$K$ 上の多項式 $f(x),$ $g(x)$ と定数 $a,$ $b \in K$ に対して,
\[\begin{aligned}
\{ f(g(x))\}' &= f'(g(x))g'(x), \\
\{ f(ax+b)\}' &= af'(ax+b)
\end{aligned}\]
が成り立つ.
定理《多項式の重根判定法》
$m$ を正の整数とする.
体 $K$ 上の多項式 $f(x)$ が $\alpha$ を $m$ 重根にもつためには,
\[ f(\alpha ) = \cdots = f^{(m-1)}(\alpha ) = 0\]
であることが必要十分である.
証明 ($m = 2$ の場合)
$f(x)$ の分解体 $L$ 上で $f(x)$ を $(x-\alpha )^2$ で割った商を $q(x),$ 余りを $ax+b$ $(a,\ b \in L)$ とおく.
このとき,
\[\begin{aligned}
f(x) &= (x-\alpha )^2q(x)+ax+b, \\
f'(x) &= 2(x-\alpha )q(x)+(x-\alpha )^2q'(x)+a
\end{aligned}\]
であるから, $\alpha$ を代入すると
\[ f(\alpha ) = a\alpha +b, \quad f'(\alpha ) = a\]
となるから,
\[ f(x) = (x-\alpha )^2q(x)+xf'(\alpha )+f(\alpha )-\alpha f'(\alpha )\]
が成り立つ.
よって,
が成り立つ.
$f(x)$ が $\alpha$ を重根にもつ $\iff$ $(x-\alpha )^2$ が $f(x)$ を割り切る |
$\iff$ $xf'(\alpha )+f(\alpha )-\alpha f'(\alpha ) = 0$ |
$\iff$ $f'(\alpha ) = f(\alpha )-\alpha f'(\alpha ) = 0$ |
$\iff$ $f(\alpha ) = f'(\alpha ) = 0$ |
分離多項式
定義《分離多項式》
体 $K$ 上の多項式 $f(x)$ は, $f(x)$ を割り切るすべての既約多項式が重根をもたないとき, 分離的 (separable) である, 分離多項式であるという.
定理《分離多項式の特徴付け》
体 $K$ の標数が $0$ であるとき, $K$ 上の任意の既約多項式は分離的である.
体 $K$ の標数が $p > 0$ であるとき, $K$ 上の多項式 $f(x)$ が分離的であるためには, $f(x)$ が $f(x) = g(x^p)$ $(g(x) \in K[x])$ と表されないことが必要十分である.
証明
-
体 $K$ 上の既約多項式
\[ f(x) = a_nx^n+\cdots +a_1x+a_0 \quad (a_n \neq 0)\]
が重根 $\alpha$ をもつとして, $K$ の標数が $p > 0$ であり, $f(x)$ が $f(x) = g(x^p)$ $(g(x) \in K[x])$ と表されることを示す.
重根の判定法により, $f(x)$ は $f(\alpha ) = f'(\alpha ) = 0$ を満たす.
$f(x)$ またはその定数倍は $\alpha$ の最小多項式であるから,
\[ f'(x) = na_nx^{n-1}+\cdots +ia_ix^{i-1}+\cdots +a_1\]
は $f(x)$ で割り切れる.
仮に $f'(x) \neq 0$ であるとすると, $\deg f'(x) > \deg f(x)$ となるが, 左辺は $n-1$ 以下, 右辺は $n$ であるから, これは不可能である.
よって, $f'(x) = 0$ であり, $f'(x)$ の各項の係数は $0$ であるから, $ia_i = 0$ $(1 \leqq i \leqq n)$ が成り立つ. これが成り立つためには, $K$ が正標数でなければならない. $K$ の標数を $p$ とすると, 整数 $i$ $(1 \leqq i \leqq n)$ が $p$ と互いに素であれば, $i \neq 0$ であるから, $a_i = 0$ でなければならない. よって, $p$ の倍数 $i$ に対して $\dfrac{i}{p}$ 次の項が $a_i$ であるような多項式を $g(x)$ とおくと, $f(x)$ は $f(x) = g(x^p)$ と表される.
例《分離多項式》
- (1)
- 実数係数多項式 $x^2+1$ は分離的である.
- (2)
- $2$ 元体 $\mathbb F_2$ 上の多項式 $f(x) = x^4+x^2+\bar 1,$ $g(x) = x^2+x+\bar 1$ を考える.
- $f(x)$ は, \[ f(\bar 0) = f(\bar 1) = \bar 1 \neq \bar 0\] と因数定理により $1$ 次式で割り切れないこと, \[ f(x) = (x^2+ax+1)(x^2+bx+1)\] を満たす $\mathbb F_2$ の元 $a,$ $b$ が存在しないことから既約であり, $f(x) = g(x^2)$ と表されるから分離的でない.
- $g(x)$ は, \[ g(\bar 0) = g(\bar 1) = \bar 1 \neq \bar 0\] と因数定理により $1$ 次式で割り切れないことから既約であり, $\mathbb F_2$ 上のどの多項式 $h(x)$ を用いても $g(x) = h(x^2)$ と表されないから分離的である.
高校数学の問題
微分法 (理系)
問題《多項式の重根判定法》
$f(x)$ を実数係数多項式, $\alpha$ を実数とする.
- (1)
- $\alpha,$ $f(\alpha ),$ $f'(\alpha )$ を用いて $f(x)$ を $(x-\alpha )^2$ で割った余りを表せ.
- (2)
- $f(x)$ が $(x-\alpha )^2$ で割り切れるための必要十分条件は, $f(\alpha ) = f'(\alpha ) = 0$ であることを示せ.
解答例
こちらを参照.