超立方体に含まれる標準大の超直方体
本稿は, このホームページで公開している $2$ つの問題 (こちらとこちらを参照) の一般化に対する結果であり, 著者の廣津が $2021$ 年 $12$ 月 $11$ 日 (主定理 2), $12$ 月 $20$ 日 (主定理 1) に証明したものである.
ここでは, 二項係数 $\dfrac{n!}{r!(n-r)!}$ を $\displaystyle\binom{n}{r}$ で表す.
英語の論文はこちらを参照.
英語の論文はこちらを参照.
主定理
定義《超立方体に含まれる標準大の超直方体》(廣津, $2021$)
$n$ 次元ユークリッド空間において, $1$ 辺の長さが $a$ の超立方体 $H$ の各辺を $m$ 等分するように格子線を引き,
各辺が格子線または境界線上にある超直方体, 超立方体が $H$ に占める体積の割合の平均値をそれぞれ $q_n(m),$ $r_n(m)$ とおき,
\[ q_n = \lim\limits_{m \to \infty}q_n(m), \quad r_n = \lim\limits_{m \to \infty}r_n(m)\]
とおく.
$H$ において, 体積が $q_na^n$ である超直方体, 体積が $r_na^n$ である超立方体は標準大 (normal-sized) であるという.
主定理 1《超立方体に含まれる標準大の超直方体》(廣津, $2021$)
$n$ 次元超立方体 $H$ において, $H$ の体積に対する標準大の超直方体の体積の比は
\[ q_n = \frac{1}{3^n}\]
である.
主定理 2《超立方体に含まれる標準大の超立方体》(廣津, $2021$)
- (1)
- $n$ 次元超立方体 $H$ において, $H$ の体積に対する標準大の超立方体の体積の比は \[ r_n = \frac{1}{\displaystyle \binom{2n+1}{n}}\] である.
- (2)
- $n$ 次元超立方体 $H$ における, $H$ の辺の長さに対する標準大の超立方体の辺の長さの比の極限値は \[\lim\limits_{n \to \infty}\sqrt[n]{r_n} = \frac{1}{4}\] である.
主定理 1 の証明
証明
$H = [0,1]^n$ の場合を考えれば十分である.
このとき, 辺の長さが $\dfrac{k_1}{m},$ $\cdots,$ $\dfrac{k_n}{m}$ の小超直方体は $(m-k_1+1)\cdots (m-k_n+1)$ 個ある.
小超直方体の体積の総和 (のべ体積) は
\[\begin{aligned}
&\sum_{k_1 = 1}^m\cdots\sum_{k_n = 1}^m(m-k_1+1)\cdots (m-k_n+1)\frac{k_1}{m}\cdots\frac{k_n}{m} \\
&= \frac{1}{m^n}\left\{\sum_{k = 1}^m(m-k+1)k\right\} ^n = \frac{1}{m^n}\left\{\frac{1}{6}m(m+1)(m+2)\right\} ^n
\end{aligned}\]
であり, 小超直方体の総数は
\[\begin{aligned}
&\sum_{k_1 = 1}^m\cdots\sum_{k_n = 1}^m(m-k_1+1)\cdots (m-k_n+1) \\
&= \sum_{k_1 = 1}^m\cdots\sum_{k_n = 1}^mk_1\cdots k_n = \left(\sum_{k = 1}^mk\right) ^n = \left\{\frac{1}{2}m(m+1)\right\} ^n
\end{aligned}\]
であるから,
\[ q_n(m) = \frac{\dfrac{1}{m^n}\left\{\dfrac{1}{6}m(m+1)(m+2)\right\} ^n}{\left\{\dfrac{1}{2}m(m+1)\right\} ^n} = \frac{(m+2)^n}{3^nm^n}\]
である.
よって,
\[ q_n = \lim\limits_{m \to \infty}\frac{1}{3^n}\left( 1+\dfrac{2}{m}\right) ^n = \frac{1}{3^n}\]
である.
主定理 2 (1) の証明
証明
$H = [0,1]^n$ の場合を考えれば十分である.
このとき, $1$ 辺の長さが $\dfrac{k}{m}$ の小超立方体は $(m-k+1)^n$ 個ある.
小超立方体の体積の総和 (のべ体積) は
\[\sum_{k = 1}^m(m-k+1)^n\left(\frac{k}{m}\right)^n\]
であり, 小超立方体の総数は
\[\sum_{k = 1}^m(m-k+1)^n = \sum_{k = 1}^mk^n\]
であるから,
\[ r_n(m) = \frac{\displaystyle\sum_{k = 1}^m(m-k+1)^nk^n}{\displaystyle m^n\sum_{k = 1}^mk^n}\]
である.
分母, 分子はともに $m$ の $2n+1$ 次式であるから, それぞれの最高次の係数に注目すると,
\[ r_n = \frac{\displaystyle\sum_{k = 0}^n\frac{(-1)^k}{n+1+k}\binom{n}{k}}{\dfrac{1}{n+1}} = (n+1)\sum_{k = 0}^n\dfrac{(-1)^k}{n+1+k}\binom{n}{k}\]
であることがわかる.
ここで,
\[ x^n(1+x)^n = \sum_{k = 0}^n\binom{n}{k}x^{n+k}\]
の両辺を $-1$ から $0$ まで積分して得られる等式
\[\int_{-1}^0x^n(1+x)^n\,dx = \sum_{k = 0}^n\binom{n}{k}\int_{-1}^0x^{n+k}\,dx\]
において,
\[\begin{aligned}
\int_{-1}^0x^n(1+x)^n\,dx &= \int_1^0(-t)^n(1-t)^n(-1)\,dt \\
&= (-1)^n\int_0^1t^n(1-t)^n\,dt \\
&= (-1)^nB(n+1,n+1) \\
&= (-1)^n\frac{n!n!}{(2n+1)!} \\
&= \frac{(-1)^n}{\displaystyle (n+1)\binom{2n+1}{n}}, \\
\sum_{k = 0}^n\binom{n}{k}\int_{-1}^0x^{n+k}\,dx &= \sum_{k = 0}^n\binom{n}{k}\left[\frac{x^{n+1+k}}{n+1+k}\right] _{-1}^0 \\
&= (-1)^n\sum_{k = 0}^n\frac{(-1)^k}{n+1+k}\binom{n}{k}
\end{aligned}\]
($B(x,y)$ はベータ関数) であるから,
\[ r_n = \frac{1}{\displaystyle \binom{2n+1}{n}}\]
である.
主定理 2 (2) の証明
証明
\[\binom{2n+1}{n} = \frac{2n+1}{n+1}\binom{2n}{n}, \quad \lim\limits_{n \to \infty}\sqrt[n]{\frac{2n+1}{n+1}} = 1\]
であるから, 公式
\[\lim\limits_{n \to \infty}\sqrt[n]{\binom{2n}{n}} = 4\]
により,
\[\lim\limits_{n \to \infty}\sqrt[n]{\binom{2n+1}{n}} = 4\]
である.
ゆえに,
\[\lim\limits_{n \to \infty}\sqrt[n]{r_n} = \frac{1}{4}\]
である.
更新履歴
- 2024/05/06
- 定義の誤植を修正
- 2022/12/07
- 論文に合わせた表記に変更
- 2022/12/01
- 定義の名称の変更
- 2022/11/29
- arXiv での論文公開 (こちらを参照)
- 2021/12/21
- 定義の変更,
- タイトルと URL の変更,
- 主定理 2 のプレプリントの改訂
- タイトルと URL の変更,
- 2021/12/20
- 定義と主定理 1 のアップロード
- 主定理 2 の記号変更,
- タイトルと URL の変更
- 主定理 2 の記号変更,
- 2021/12/17
- 主定理 2 のプレプリントのアップロード
- 2021/12/11
- 主定理 2 のアップロード