有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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本格数学クイズ (極限)

数列の極限

クイズ《方眼の中の正方形》

 $n\times n$ マスの方眼の罫線に沿って描かれた正方形がマス目全体に占める面積の割合として見込まれる値は, $n$ が大きくなるにつれてどのような値に近づいていくか.
(オリジナル)
$2023/07/21$$2023/07/21$

答え

 $\dfrac{1}{10}.$

解説

 $n\times n$ マスの方眼の罫線に沿って正方形を描けるだけ描くとき, 正方形がマス目全体に占める面積の割合の平均値を $a_n$ とおく. 求めるべきは, 極限値 $\displaystyle\lim\limits_{n \to \infty}a_n$ である. 方眼のマス目の $1$ 辺の長さが $1$ であるとする.
(1)
数列 $\{ a_n\}$ の一般項を求める.
  • 正方形の個数は, $1$ 辺の長さが $k$ $(1 \leqq k \leqq n)$ である正方形が $(n-k+1)^2$ 個あることから, \[\sum_{k = 1}^n(n-k+1)^2 = \sum_{k = 1}^nk^2 = \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \quad \cdots [1]\] である.
  • 正方形ののべ面積は, \[\begin{aligned} &\sum_{k = 1}^n(n-k+1)^2k^2 \\ &= \sum_{k = 1}^n\{ (n+1)^2-2(n+1)k+k^2\} k^2 \\ &= \sum_{k = 1}^n\{ (n+1)^2k^2-2(n+1)k^3+k^4\} \\ &= (n+1)^2\sum_{k = 1}^nk^2-2(n+1)\sum_{k = 1}^nk^3+\sum_{k = 1}^nk^4 \\ &= (n+1)^2\cdot\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \\ &\qquad -2(n+1)\cdot\frac{1}{4}n^2(n+1)^2 \\ &\qquad +\frac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n-1) \\ &= \frac{1}{30}n(n+1)\{ 5(n+1)^2(2n+1) \\ &\qquad -15n(n+1)^2+(2n+1)(3n^2+3n-1)\} \\ &= \frac{1}{30}n(n+1)(n^3+4n^2+6n+4) \\ &= \frac{1}{30}n(n+1)(n+2)(n^2+2n+2) \quad \cdots [2] \end{aligned}\] である. ここで, \[\sum_{k = 1}^nk^4 = \frac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n-1)\] であることを使った.
  • 正方形がマス目全体に占める面積の割合の平均値 $a_n$ は, 正方形の面積の平均値のマス目全体の面積に対する割合 $[2]\div [1]\div n^2$ に等しいから, \[\begin{aligned} a_n &= \frac{\dfrac{1}{30}n(n+1)(n+2)(n^2+2n+2)}{\dfrac{1}{6}n(n+1)(2n+1)\cdot n^2} \\ &= \frac{(n+2)(n^2+2n+2)}{5n^2(2n+1)} \end{aligned}\] である.
(2)
極限値 $\lim\limits_{n \to \infty}a_n$ を求める. \[\begin{aligned} a_n &= \frac{(n+2)(n^2+2n+2)}{5n^2(2n+1)} = \frac{\left( 1+\dfrac{2}{n}\right)\left( 1+\dfrac{2}{n}+\dfrac{2}{n^2}\right)}{5\left( 2+\dfrac{1}{n}\right)} \\ &\to \frac{1}{10} \quad (n \to \infty ) \end{aligned}\] であるから, $\lim\limits_{n \to \infty}a_n = \dfrac{1}{10}$ である.

参考

 このクイズの結果は高次元に一般化され,「$d$ 次元超立方体」における「標準大の超立方体」の「$d$ 次元体積」は $\dfrac{1}{{}_{2d+1}\mathrm C_d}$ である (こちらを参照; 廣津, $2021$ 年). 本問の答えの $10$ は ${}_{2\cdot 2+1}\mathrm C_2$ からきている.

クイズ《方眼の中の長方形》

 $n\times n$ マスの方眼の罫線に沿って描かれた長方形がマス目全体に占める面積の割合として見込まれる値は, $n$ が大きくなるにつれてどのような値に近づいていくか.
(オリジナル)
$2024/02/23$$2024/02/25$

答え

 $\dfrac{1}{9}.$

解説

 $n\times n$ マスの方眼の罫線に沿って長方形を描けるだけ描くとき, 長方形がマス目全体に占める面積の割合の平均値を $a_n$ とおく. 求めるべきは, 極限値 $\displaystyle\lim\limits_{n \to \infty}a_n$ である. 方眼のマス目の $1$ 辺の長さが $1$ であるとする.
(1)
数列 $\{ a_n\}$ の一般項を求める.
  • 長方形の個数は, 隣り合う $2$ 辺の長さが $k,$ $l$ $(1 \leqq k \leqq n,$ $1 \leqq l \leqq n)$ である長方形が $(n-k+1)(n-l+1)$ 個あることから, \[\begin{aligned} &\sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^n(n-k+1)(n-l+1) \\ &= \sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^nkl = \left(\sum_{k = 1}^nk\right)\left(\sum_{l = 1}^nl\right) = \left(\sum_{k = 1}^nk\right) ^2 \\ &= \left\{\frac{1}{2}n(n+1)\right\} ^2 \quad \cdots [1] \end{aligned}\] である.
  • 長方形ののべ面積は, \[\begin{aligned} &\sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^n(n-k+1)(n-l+1)kl \\ &= \left\{\sum_{k = 1}^n(n-k+1)k\right\}\left\{\sum_{l = 1}^n(n-l+1)l\right\} \\ &= \left\{\sum_{k = 1}^n(n-k+1)k\right\} ^2 \\ &= \left\{ \frac{1}{6}n(n+1)(n+2)\right\} ^2 \quad \cdots [2] \end{aligned}\] である. ここで, \[\begin{aligned} &\sum_{k = 1}^n(n-k+1)k = \sum_{k = 1}^n\{ (n+1)k-k^2\} \\ &= (n+1)\sum_{k = 1}^nk-\sum_{k = 1}^nk^2 \\ &= (n+1)\frac{1}{2}n(n+1)-\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \\ &= \frac{1}{6}n(n+1)\{ 3(n+1)-(2n+1)\} \\ &= \frac{1}{6}n(n+1)(n+2) \end{aligned}\] であることを使った.
  • 長方形がマス目全体に占める面積の割合の平均値 $a_n$ は, 長方形の面積の平均値のマス目全体の面積に対する割合 $[2]\div [1]\div n^2$ に等しいから, \[\frac{\left\{\dfrac{1}{6}n(n+1)(n+2)\right\} ^2}{\left\{\dfrac{1}{2}n(n+1)\right\} ^2\cdot n^2} = \frac{(n+2)^2}{9n^2}\] である.
(2)
極限値 $\lim\limits_{n \to \infty}a_n$ を求める. \[ a_n = \frac{(n+2)^2}{9n^2} = \frac{1}{9}\left( 1+\dfrac{2}{n}\right) ^2 \to \frac{1}{9} \quad (n \to \infty )\] であるから, $\lim\limits_{n \to \infty}a_n = \dfrac{1}{9}$ である.

参考

 本問の結果は高次元に一般化され,「$d$ 次元超立方体」における「標準大の超直方体」の「$d$ 次元体積」は $\dfrac{1}{3^d}$ である (こちらを参照; 廣津, $2021$ 年). 本問の答えの $9$ は $3^2$ からきている.

クイズ《長方形の辺長の比の極限値》

 正方形の $1$ 辺に, それと $1$ 辺の長さが等しい正方形の辺を貼り合わせて長方形を作る. その長い方の辺に, それと $1$ 辺の長さが等しい正方形の辺を貼り合わせて新たな長方形を作る. この操作を続けるとき, 長方形の隣り合う $2$ 辺の長さの比はどのような値に近づいていくか.
(有名問題)
$2023/02/02$$2024/02/03$

答え

 $1:\dfrac{1+\sqrt 5}{2}$ (約 $1:1.61803$).

解説

 最初の正方形の $1$ 辺の長さを $1$ とし, $n$ 個目の正方形の $1$ 辺の長さを $F_n$ とおく. このとき, $n$ 個目まで正方形を貼り合わせてできる長方形の隣り合う $2$ 辺の長さは $F_n,$ $F_{n+1}$ になる. \[ F_1 = F_2 = 1\] であり, $n+2$ 個目の正方形の $1$ 辺の長さは $n+1$ 個目と $n$ 個目の正方形の $1$ 辺の長さの和に等しいから, \[ F_{n+2} = F_n+F_{n+1}\] が成り立ち, 数列 $\{ F_n\}$ の一般項は \[ F_n = \frac{1}{\sqrt 5}\left\{\left(\frac{1+\sqrt 5}{2}\right) ^n-\left(\frac{1-\sqrt 5}{2}\right) ^n\right\}\] である (こちらを参照, $F_n = a_{n-1}$). $\alpha = \dfrac{1+\sqrt 5}{2},$ $\beta = \dfrac{1-\sqrt 5}{2}$ とおくと \[\left|\frac{\beta}{\alpha}\right| = \frac{\sqrt 5-1}{\sqrt 5+1} < 1\] となるから, \[\begin{aligned} \lim\limits_{n \to \infty}\frac{F_{n+1}}{F_n} &= \lim\limits_{n \to \infty}\frac{\alpha ^{n+1}-\beta ^{n+1}}{\alpha ^n-\beta ^n} = \lim\limits_{n \to \infty}\frac{\alpha -\beta\left(\dfrac{\beta}{\alpha}\right) ^n}{1-\left(\dfrac{\beta}{\alpha}\right) ^n} \\ &= \frac{\alpha -\beta\cdot 0}{1-0} = \alpha \end{aligned}\] であり, 求める比の極限値は \[ 1:\frac{1+\sqrt 5}{2}\] である.

参考

  • 初期条件 $F_1 = F_2 = 1$ と漸化式 $F_{n+2} = F_n+F_{n+1}$ で定まる数列 \[\{ F_n\}:1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,\cdots\] を「フィボナッチ数列」(Fibonacci sequence) と呼ぶ. この数列の項は「フィボナッチ数」と呼ばれ, 花びらの枚数, 植物の種が並んでできるらせんの本数など, 自然界でよく見られる整数である.
  • 公式 \[ F_n = \frac{1}{\sqrt 5}\left\{\left(\frac{1+\sqrt 5}{2}\right) ^n-\left(\frac{1-\sqrt 5}{2}\right) ^n\right\}\] は「ビネの公式」(Binet's formula) として知られている.
  • 「黄金比」(golden ratio) と呼ばれる比 $1:\dfrac{1+\sqrt 5}{2}$ は最も美しい比であると言われ, 多くの美術作品の中にこの比を見ることができる.

クイズ《くじで当たらない確率の極限値》

 $n$ 本中 $1$ 本だけ当たりが入ったくじを $n$ 回引くときに $1$ 回も当たらない確率は, $n$ が大きくなるにつれてどのような値に近づいていくか. ただし, 引いたくじは毎回もとに戻すものとする.
(有名問題)
$2023/07/15$$2023/07/15$

答え

 $\dfrac{1}{e}$ ($e$: ネイピア数).

解説

 このくじにおいて, 当たりの確率は $\dfrac{1}{n},$ はずれの確率は $1-\dfrac{1}{n}$ であるから, $n$ 回引くときに $1$ 回も当たらない確率は \[\begin{aligned} \left( 1-\frac{1}{n}\right)^n &= \frac{1}{\left( 1+\dfrac{1}{-n}\right)^{-n}} \\ &\to \frac{1}{e} \quad (n \to \infty) \end{aligned}\] である. ここで, \[ e = \lim\limits_{k \to 0}(1+k)^{\frac{1}{k}} = \lim\limits_{x \to \pm\infty}\left( 1+\frac{1}{x}\right) ^x\] であることを使った.

参考

 答えの近似値は, \[\frac{1}{e} = 0.3678794411\cdots\] である.

無限級数

クイズ《硬貨を投げる回数の期待値》

 表が出る確率も裏が出る確率も $\dfrac{1}{2}$ である硬貨を表が出るまで投げ続けるとき, 何回目に投げ終わると見込まれるか.
(有名問題)
$2023/09/22$$2023/09/22$

答え

 $2$ 回目.

解説

 $n$ 回目に初めて表が出る確率を $p_n$ とおく. 求める期待値 $E$ は \[ E = \sum_{n = 1}^\infty np_n\] と表される.
(1)
$p_n$ を求める. $n$ 回目に初めて表が出るのは, $n-1$ 回目までに裏が出て $n$ 回に表が出る場合であるから, その確率は \[ p_n = \left(\frac{1}{2}\right) ^{n-1}\cdot\frac{1}{2} = \left(\frac{1}{2}\right) ^n\] である.
(2)
$S_n = \displaystyle\sum_{k = 1}^nkp_k$ を求める. (1) の結果から, \[ S_n = 1\cdot\frac{1}{2}+2\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^2+\cdots +n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^n\] である. 両辺に $\dfrac{1}{2}$ を掛けると \[\frac{1}{2}S_n = 1\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^2+\cdots +(n-1)\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^n+n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^{n+1}\] となるから, 辺々を引くと \[\begin{aligned} \frac{1}{2}S_n &= \frac{1}{2}+\left(\frac{1}{2}\right) ^2+\cdots +\left(\frac{1}{2}\right) ^n-n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^{n+1} \\ &= \frac{\dfrac{1}{2}\left\{ 1-\left(\dfrac{1}{2}\right) ^n\right\}}{1-\dfrac{1}{2}}-n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^{n+1} \\ &= 1-\left(\frac{1}{2}\right) ^n-n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^{n+1} \\ S_n &= 2-2\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^n-2n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^{n+1} \end{aligned}\] が得られる.
(3)
$E$ の値を求める. (2) の結果から, \[\begin{aligned} E &= \lim_{n \to \infty}S_n \\ &= \lim_{n \to \infty}\left\{ 2-2\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^n-2n\cdot\left(\frac{1}{2}\right) ^{n+1}\right\} \\ &= 2 \end{aligned}\] である.

クイズ《労働者の報酬》

 $1$ 日目に $1$ 人の労働者がおり, $n$ 日目 $(n \geqq 2)$ に $n$ 人の労働者が増える. 毎日 $a$ 円の報酬を労働者全員で均等割りするとして無限に働き続けるとき, $1$ 日目からいる労働者が得られる報酬は合わせて何円か.
(有名問題, 脚色あり)
$2024/08/02$$2024/08/02$

答え

 $2a$ 円.

解説

 $n$ 日目に労働者は
$\displaystyle\sum_{k = 1}^nk = \frac{n(n+1)}{2}$ (人)
いるから, $n$ 日目の報酬は
$\displaystyle a\div\frac{n(n+1)}{2} = \frac{2a}{n(n+1)}$ (円)
である. よって, $1$ 日目からいる労働者が $N$ 日目までに得られる報酬は
$\displaystyle\sum_{n = 1}^N\!\frac{2a}{n(n+1)} = 2a\sum_{n = 1}^N\!\left(\!\frac{1}{n}\!-\!\frac{1}{n+1}\!\right) = 2a\!\left( 1\!-\!\frac{1}{N+1}\right)$ (円)
であるから, $\displaystyle\lim\limits_{N \to \infty}\dfrac{1}{N+1} = 0$ により, この労働者が無限に働き続けるときに得られる報酬は
$2a$ 円
である.

参考

  • $T_n = \dfrac{n(n+1)}{2}$ ($n$: 正の整数) の形の整数を「三角数」と呼ぶ.
  • 「三角数」の逆数の総和 $\displaystyle\sum_{n = 1}^\infty\frac{1}{T_n} = 2$ はメンゴーリによって求められた.