有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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イデアル

 可換環 (加法, 減法, 乗法が定義され, 加法, 乗法について交換法則, 結合法則, 分配法則を満たす集合; 例えば整数全体の集合 Z\mathbb Z) の理論において, イデアルの概念は非常に重要である.

イデアル

定義《イデアル》

 AA を可換環とする. AA の空でない部分集合 II が次の条件を満たすとき, IIAAイデアル (ideal) と呼ぶ.
(I1)
a,a, bIb \in I \Longrightarrow a+bIa+b \in I が成り立つ.
(I2)
cA,c \in A, aIa \in I \Longrightarrow caIca \in I が成り立つ.

注意

 上記の 22 つの条件は, 次の条件にまとめられる.
(I)
c1,c_1, c2A,c_2 \in A, a1,a_1, a2Ia_2 \in I \Rightarrow c1a1+c2a2Ic_1a_1+c_2a_2 \in I が成り立つ.

例《イデアル》

 AA を可換環とする.
(1)
{0}\{ 0\}AA 自身は AA のイデアルである. これを AA自明なイデアル (trivial ideal) と呼ぶ.
(2)
g1,g_1, ,\cdots, gnAg_n \in A に対して, {c1g1++cngnc1,,cnA}\{ c_1g_1+\cdots +c_ng_n \mid c_1,\cdots,c_n \in A\}AA のイデアルである. これを g1,g_1, ,\cdots, gng_n により生成される AA のイデアル (ideal of AA generated by g1,g_1, ,\cdots, gng_n) と呼び, g1,,gn\langle g_1,\cdots,g_n\rangle で表す. 特に, gAg \in A に対して, g={cgcA}\langle g\rangle = \{ cg \mid c \in A\}gg により生成される AA単項イデアル (principal ideal) と呼ぶ. 特に, すべての整数 mm に対して, mm の倍数全体 {mqqZ}\{ mq \mid q \in \mathbb Z\} は整数環 Z\mathbb Z のイデアルである.
(3)
SSAA の空でない部分集合とする. SS を含むような AA のイデアルすべての共通部分は, SS を含むような AA の最小のイデアルとなる. このイデアルを SS により生成される AA のイデアルと呼び, S\langle S\rangle で表す. また, SS をその生成系 (generating set), SS の元をその生成元 (generator) と呼ぶ.

命題《体のイデアル》

 KK を環とする. このとき,
KK は体     \iff KK のイデアルは自明なイデアルに限る
が成り立つ.

証明

 ()(\Longrightarrow) を示すため, KK を体とする. このとき, KK のイデアル a\mathfrak a00 以外の元 aa を含むならば, a1a=1aa^{-1}a = 1 \in \mathfrak a を満たすから, a=K\mathfrak a = K となる.
 ()(\Longleftarrow) を示すため, KK のイデアルが自明なイデアルに限るとする. このとき, KK00 でない元 aa に対して, 1K=(a)1 \in K = (a) であるから, 1=ca1 = ca を満たす KK の元 cc が存在する. よって, KK は体である.

定理《整数環のイデアルの単項性》

 整数環 Z\mathbb Z のイデアルはすべて単項イデアルである.

証明

 IIZ\mathbb Z の任意のイデアルとする.
(i)
I={0}I = \{ 0\} のとき. I=0I = \langle 0\rangle である.
(ii)
I{0}I \neq \{ 0\} のとき. aIaIa \in I \Longrightarrow -a \in I が成り立つから, II は正の整数を含む. II に属する正の整数のうち絶対値が最小の整数を mm とおく. このとき, aaII に属する任意の整数とし, aamm で割った商を q,q, 余りを rr とおくと, r=a+m(q)I,0r<m r = a+m(-q) \in I, \quad 0 \leqq r < m となるから, mm の最小性により r=0,r = 0, a=mqa = mq となる. よって, I=mI = \langle m\rangle である.
(i), (ii) から, II は単項イデアルである.

命題《イデアルの和》

 AA を可換環, (Iλ)λΛ(I_\lambda )_{\lambda \in \mathit\Lambda}AA のイデアルの族とする. このとき, 実質的有限和 λΛaλ(aλIλ)\sum_{\lambda \in \mathit\Lambda}a_\lambda \quad (a_\lambda \in I_\lambda ) (有限個の aλa_\lambda (λΛ)(\lambda \in \mathit\Lambda ) を除いて aλ=0a_\lambda = 0) 全体は各イデアル IλI_\lambda (λΛ)(\lambda \in \mathit\Lambda ) を含む AA の最小のイデアルである.

定義《イデアルの和, 積》

 AA を可換環, (Iλ)λΛ(I_\lambda )_{\lambda \in \mathit\Lambda}AA のイデアルの族, I1,I_1, ,\cdots, InI_nAA のイデアルとする.
(1)
上記の命題のイデアルを (Iλ)λΛ(I_\lambda )_{\lambda \in \mathit\Lambda} (sum) と呼び, λΛIλ\sum_{\lambda \in \mathit\Lambda}I_\lambda で表す. 特に, Λ={1,2}{\mathit\Lambda} = \{ 1,2\} のとき, これを I1+I2I_1+I_2 で表す. I1+I2=(1)I_1+I_2 = (1) のとき, I1,I_1, I2I_2互いに素 (coprime) であるという. また, λμIλ+Iμ=(1)\lambda \neq \mu \Longrightarrow I_\lambda +I_\mu = (1) のとき, (Iλ)λΛ(I_\lambda )_{\lambda \in \mathit\Lambda}対ごとに素 (pairwise coprime) であるという.
(2)
{a1ana1I1, , anIn}\{ a_1\cdots a_n \mid a_1 \in I_1,\ \cdots,\ a_n \in I_n\} により生成される AA のイデアルを I1,I_1, ,\cdots, InI_n (product) と呼び, I1InI_1\cdots I_n または i=1nIi\prod_{i = 1}^nI_i で表す.

命題《イデアルの共通部分》

 AA を可換環, (Iλ)λΛ(I_\lambda )_{\lambda \in \mathit\Lambda}AA のイデアルの族とする. このとき, λΛIλ={aaIλ (λΛ)}\bigcap_{\lambda \in \mathit\Lambda}I_\lambda = \{ a \mid a \in I_\lambda\ (\lambda \in \mathit\Lambda )\}AA のイデアルである.

参考

 より一般に, AA 加群の族の共通部分は AA 加群である.

命題《イデアルの積と共通部分の関係》

 AA を可換環, I1,I_1, ,\cdots, InI_n (n2)(n \geqq 2)AA のイデアルとする. このとき, k=1nIkk=1nIk\prod _{k = 1}^nI_k \subset \bigcap _{k = 1}^nI_k が成り立つ. さらに, I1,I_1, ,\cdots, InI_n が対ごとに素であるとき, この包含関係は等式になる.

証明

 前半の主張: 明らかである.
 後半の主張: 数学的帰納法で示す.
(i)
n=2n = 2 のとき. 分配法則により (I1+I2)(I1I2)=I1(I1I2)+I2(I1I2)I1I2 (I_1+I_2)(I_1\cap I_2) = I_1(I_1\cap I_2)+I_2(I_1\cap I_2) \subset I_1I_2 が成り立つから, I1+I2=(1)I_1+I_2 = (1) のとき I1I2=I1I2I_1\cap I_2 = I_1I_2 が成り立つ.
(ii)
n>2n > 2 のとき. I1,I_1, ,\cdots, In1I_{n-1} に対して主張が成り立つとし, I=k=1n1Ik=k=1n1Ik I = \prod_{k = 1}^{n-1}I_k = \bigcap_{k = 1}^{n-1}I_k とおく. Ik+In=(1)I_k+I_n = (1) (1kn1)(1 \leqq k \leqq n-1) であるから, xk+yk=1 x_k+y_k = 1 を満たす xkIk,x_k \in I_k, ykIny_k \in I_n が存在し, k=1n1xk=k=1n1(1yk)1(modIn)\prod_{k = 1}^{n-1}x_k = \prod_{k = 1}^{n-1}(1-y_k) \equiv 1 \pmod{I_n} が成り立つ. よって, I+In=(1)I+I_n = (1) であるから, (i) の結果を利用すると k=1nIk=IIn=IIn=k=1nIk\prod_{k = 1}^nI_k = II_n = I\cap I_n = \bigcap_{k = 1}^nI_k が得られる.
(i), (ii) から, 22 以上のすべての整数 nn に対して求める主張が成り立つ.

命題《イデアルの分配法則, モジュラー法則》

 AA を可換環, I,I, J1,J_1, J2J_2AA のイデアルとする. このとき, I(J1+J2)=IJ1+IJ2 I(J_1+J_2) = IJ_1+IJ_2 が成り立つ (分配法則). また, IJ1,I \supset J_1, IJ2I \supset J_2 ならば, I(J1+J2)=IJ1+IJ2 I\cap (J_1+J_2) = I\cap J_1+I\cap J_2 が成り立つ (モジュラー法則).

命題《環の準同型とイデアル》

 φ:AA\varphi :A\to A' を可換環の準同型とする.
(1)
φ\varphi が全射ならば, AA のイデアル II に対して φ(I)\varphi (I)AA' のイデアルである.
(2)
AA' のイデアル II' に対して φ1(I)\varphi ^{-1}(I')AA のイデアルである.

証明

(1)
φ\varphi が全射であるとする. このとき, 0=φ(0)φ(I)0 = \varphi (0) \in \varphi (I) から φ(I)\varphi (I) \neq \varnothing である. また, φ(I)\varphi (I) の元 a,a', b,b', AA' の元 cc'a=φ(a),a' = \varphi (a), b=φ(b),b' = \varphi (b), c=φ(c)c' = \varphi (c) (a,(a, b,b, cA)c \in A) の形に表されるから, a+b=φ(a)+φ(b)=φ(a+b)φ(I),ca=φ(c)φ(a)=φ(ca)φ(I)\begin{aligned} a'+b' &= \varphi (a)+\varphi (b) = \varphi (a+b) \in \varphi (I), \\ c'a' &= \varphi (c)\varphi (a) = \varphi (ca) \in \varphi (I) \end{aligned} を満たす. よって, φ(I)\varphi (I)AA' のイデアルである.
(2)
  • φ(0)=0I\varphi (0) = 0 \in I' により 0φ1(I)0 \in \varphi ^{-1}(I') であるから, φ1(I)\varphi ^{-1}(I') \neq \varnothing
  • a,a, bφ1(I)b \in \varphi ^{-1}(I') ならば, φ(a+b)=φ(a)+φ(b)I\varphi (a+b) = \varphi (a)+\varphi (b) \in I' となるから, a+bφ1(I)a+b \in \varphi ^{-1}(I')
  • cA,c \in A, aφ1(I)a \in \varphi ^{-1}(I') ならば, φ(ca)=φ(c)φ(a)I\varphi (ca) = \varphi (c)\varphi (a) \in I' となるから, caφ1(b)ca \in \varphi ^{-1}(\mathfrak b)
が成り立つから, φ1(I)\varphi ^{-1}(I')AA のイデアルである.

命題《環の直積のイデアル》

 (Aλ)λΛ(A_\lambda )_{\lambda \in \mathit\Lambda} を可換環の族, IλI_\lambdaAλA_\lambda のイデアルとする. 集合の直積 λΛIλ\prod_{\lambda \in \mathit\Lambda}I_\lambdaλΛAλ\prod_{\lambda \in \mathit\Lambda}A_\lambda のイデアルである. また, λΛAλ\prod_{\lambda \in \mathit\Lambda}A_\lambda のすべてのイデアルはこの形に表される.

剰余環

命題《剰余環》

 AA を可換環, IIAA のイデアルとする. AA の元 a,a, bb に対して ab    baI a \sim b \iff b-a \in I で定まる AA 上の二項関係は同値関係である. aa の同値類を a+Ia+I で表すとき, その同値類全体 A/A/\sim(a+I)+(b+I)=(a+b)+I,(a+I)(b+I)=ab+I\begin{aligned} (a+I)+(b+I) &= (a+b)+I, \\ (a+I)(b+I) &= ab+I \end{aligned} で定まる加法, 乗法に関して可換環をなす.

証明

 A/IA/I は, AA の加法群の部分群 II による剰余群として, 加法に関して可換群をなす (こちらを参照). a+I=a+I,a+I = a'+I, b+I=b+Ib+I = b'+I (a,b,a,bA)(a,b,a',b' \in A) のとき, IIAA のイデアルであることから aa, bbI,a(bb), (aa)bI a-a',\ b-b' \in I, \quad a(b-b'),\ (a-a')b' \in I となり, abab=a(bb)+(aa)bI ab-a'b' = a(b-b')+(a-a')b' \in I したがって ab+I=ab+Iab+I = a'b'+I が得られるので, A/IA/I の乗法は代表の取り方によらないことに注意する. 乗法に関する結合法則, 単位元の存在, 交換法則は, 加法と同様に示される. 分配法則は, (c+I)((a+I)+(b+I))=(c+I)((a+b)+I)=c(a+b)+I=(ca+cb)+I=(ca+I)+(cb+I)=(c+I)(a+I)+(c+I)(b+I)(a,b,cA)\begin{aligned} &(c+I)((a+I)+(b+I)) = (c+I)((a+b)+I) \\ &= c(a+b)+I = (ca+cb)+I \\ &= (ca+I)+(cb+I) = (c+I)(a+I)+(c+I)(b+I) \\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad (a,b,c \in A) \end{aligned} と示される.

定義《剰余環》

 上記の命題の可換環 A/A/\simAAII を法とする剰余 (類) 環または商環 (residue (class) ring, quotient ring) と呼び, A/IA/I で表す.

命題《剰余環のイデアル》

 AA を可換環, IIAA のイデアルとし, π:AA/I\pi :A\to A/I を標準的な全射準同型とする. このとき, A/IA/I のイデアル全体と II を含むような AA のイデアル全体の間には, 包含関係を保つ 1111 対応 Jπ1(J) J \mapsto \pi ^{-1}(J) が存在する.

環の準同型定理

命題《環の準同型によるイデアルの逆像, 部分環の像》

 φ:AA\varphi :A\to A' を可換環の準同型とする.
(1)
φ\varphi による AA' のイデアル II' の逆像 φ1(I)={aAφ(a)I}\varphi ^{-1}(I') = \{ a \in A \mid \varphi (a) \in I'\}AA のイデアルである.
(2)
φ\varphi による AA の部分環 SS の像 φ(S)={φ(a)aS}\varphi (S) = \{\varphi (a) \mid a \in S\}AA' の部分環である.

証明

(1)
φ(0)=0I\varphi (0) = 0 \in I' から φ1(I)\varphi ^{-1}(I') \neq \varnothing である. また, a,a, bφ1(I),b \in \varphi ^{-1}(I'), cAc \in A のとき, φ(a),\varphi (a), φ(b)I\varphi (b) \in I' から φ(a+b)=φ(a)+φ(b)I,φ(ca)=φ(c)φ(a)I\begin{aligned} \varphi (a+b) &= \varphi (a)+\varphi (b) \in I', \\ \varphi (ca) &= \varphi (c)\varphi (a) \in I' \end{aligned} となり, a+b,a+b, caφ1(I)ca \in \varphi ^{-1}(I') となるから, φ1(I)\varphi ^{-1}(I')AA のイデアルである.
(2)
SS \neq \varnothing から φ(S)\varphi (S) \neq \varnothing である. また, φ(S)\varphi (S) の元 a,a', bb'SS の元 a,a, bb を用いて a=φ(a),a' = \varphi (a), b=φ(b)b' = \varphi (b) と表され, よって a+b,a'+b', a,-a', aba'b'SS の元 a+b,a+b, a,-a, abab を用いて a+b=φ(a)+φ(b)=φ(a+b),a=φ(a)=φ(a),ab=φ(a)φ(b)=φ(ab)\begin{aligned} a'+b' &= \varphi (a)+\varphi (b) = \varphi (a+b), \\ -a' &= -\varphi (a) = \varphi (-a), \\ a'b' &= \varphi (a)\varphi (b) = \varphi (ab) \end{aligned} と表されるから, a+b,a'+b', a,-a', abφ(S)a'b' \in \varphi (S) となる. よって, φ(S)\varphi (S)AA' の部分環である.

定義《環の準同型の核, 像》

 φ:AA\varphi :A\to A' を可換環の準同型とする.
(1)
φ\varphi による {0}\{ 0\} の逆像を φ\varphi (kernel) と呼び, Ker(φ)\mathrm{Ker}\,(\varphi ) で表す.
(2)
φ\varphi の値域 φ(A)\varphi (A)φ\varphi (image) と呼び, Im(φ)\mathrm{Im}\,(\varphi ) で表す.

定理《環の第 11 同型定理 (準同型定理)》

 可換環の準同型 φ:AA\varphi :A\to A' について, A/Ker(φ)Im(φ) A/\mathrm{Ker}\,(\varphi ) \cong \mathrm{Im}\,(\varphi ) が成り立つ. この同型は, φ\varphi から誘導される φˉ: ⁣ ⁣ ⁣ ⁣ ⁣A/Ker(φ) ⁣ ⁣ ⁣ ⁣ ⁣ ⁣Im(φ)a+Ker(φ) ⁣ ⁣ ⁣ ⁣ ⁣ ⁣φ(a)\begin{array}{crcl} \bar\varphi :\!\!\!\!\! & A/\mathrm{Ker}\,(\varphi ) & \!\!\!\to\!\!\! & \mathrm{Im}\,(\varphi ) \\ {} & a+\mathrm{Ker}\,(\varphi ) & \!\!\!\mapsto\!\!\! & \varphi (a) \end{array} で与えられる.
 特に, 可換環の全射準同型 φ:AA\varphi :A\to A' について, A/Ker(φ)A A/\mathrm{Ker}\,(\varphi ) \cong A' が成り立つ.

証明

 I=Ker(φ)I = \mathrm{Ker}\,(\varphi ) とおく. A/IA/I の元 a+I,a+I, b+Ib+I (a, bA)(a,\ b \in A) に対して a+I=b+I    abI    φ(ab)=0    φ(a)φ(b)=0    φ(a)=φ(b)    φˉ(a+I)=φˉ(b+I)\begin{aligned} a+I = b+I &\iff a-b \in I \\ &\iff \varphi (a-b) = 0 \\ &\iff \varphi (a)-\varphi (b) = 0 \\ &\iff \varphi (a) = \varphi (b) \\ &\iff \bar\varphi (a+I) = \bar\varphi (b+I) \end{aligned} が成り立つから, a+Ia+I の値 φˉ(a+I)=φ(a)\bar\varphi (a+I) = \varphi (a)a+Ia+I の代表 aa のとり方によらず定まることに注意する.
 A/IA/I の元 a+I,a+I, b+Ib+I (a, bA)(a,\ b \in A) に対して φˉ((a+I)+(b+I))=φˉ((a+b)+I)=φ(a+b)=φ(a)+φ(b)=φˉ(a+I)+φˉ(b+I),φˉ((a+I)(b+I))=φˉ(ab+I)=φ(ab)=φ(a)φ(b)=φˉ(a+I)φˉ(b+I)\begin{aligned} \bar\varphi ((a+I)+(b+I)) &= \bar\varphi ((a+b)+I) \\ &= \varphi (a+b) \\ &= \varphi (a)+\varphi (b) \\ &= \bar\varphi (a+I)+\bar\varphi (b+I), \\ \bar\varphi ((a+I)(b+I)) &= \bar\varphi (ab+I) \\ &= \varphi (ab) \\ &= \varphi (a)\varphi (b) \\ &= \bar\varphi (a+I)\bar\varphi (b+I) \end{aligned} が成り立つから, φˉ\bar\varphi は可換環の準同型である.
 A/IA/I の元 a+Ia+I (aA)(a \in A) に対して φˉ(a+I)=0    φ(a)=0    aI    a+I=I\begin{aligned} \bar\varphi (a+I) = 0 &\iff \varphi (a) = 0 \\ &\iff a \in I \\ &\iff a+I = I \end{aligned} が成り立つから, φˉ\bar\varphi は単射である.
 Im(φ)\mathrm{Im}\,(\varphi ) の各元 aa'AA のある元 aa を用いて a=φ(a)=φˉ(a+I) a' = \varphi (a) = \bar\varphi (a+I) と表されるから, φˉ\bar\varphi は全射である.
 以上により, φˉ\bar\varphi は可換環の同型である.

定理《中国式剰余定理》

 AA を可換環, I1,I_1, ,\cdots, InI_n (n2)(n \geqq 2) を対ごとに素な AA のイデアルとする. このとき, A/k=1nIkk=1n(A/Ik) A/\prod _{k = 1}^nI_k \cong \prod_{k = 1}^n(A/I_k) が成り立つ.

証明

 数学的帰納法で示す.
(i)
n=2n = 2 のとき. f:A(A/I1)×(A/I2);a(amodI1,amodI2) f:A \to (A/I_1)\times (A/I_2);a \mapsto (a\bmod I_1,a\bmod I_2) について, Ker(f)=I1I2=I1I2\mathrm{Ker}\,(f) = I_1\cap I_2 = I_1I_2 であり (右側の等号についてはこちらを参照), x1+x2=1x_1+x_2 = 1 を満たす x1I1,x_1 \in I_1, x2I2x_2 \in I_2 をとると a1,a_1, a2Aa_2 \in A に対して a2x1+a1x2=a1+(a2a1)x1=a2+(a1a2)x2 a_2x_1+a_1x_2 = a_1+(a_2-a_1)x_1 = a_2+(a_1-a_2)x_2 よって f(a2x1+a1x2)=(a1modI1,a2modI2) f(a_2x_1+a_1x_2) = (a_1\bmod I_1,a_2\bmod I_2) となるから ff は全射である. したがって, 準同型定理により A/(I1I2)=A/(I1I2)(A/I1)×(A/I2) A/(I_1I_2) = A/(I_1\cap I_2) \cong (A/I_1)\times (A/I_2) が成り立つ.
(i)
n>2n > 2 のとき. I1,I_1, ,\cdots, In1I_{n-1} に対して主張が成り立つとする. このとき, k=1n1Ik,\prod _{k = 1}^{n-1}I_k, InI_n が互いに素であることに注意すると (こちらを参照), A/k=1nIk=A/(k=1n1IkIn)(A/k=1n1Ik)×(A/In)k=1n1(A/Ik)×(A/In)=k=1n(A/Ik)\begin{aligned} A/\prod _{k = 1}^nI_k &= A/\left(\prod _{k = 1}^{n-1}I_k\cdot I_n\right) \\ &\cong \left( A/\prod _{k = 1}^{n-1}I_k\right)\times (A/I_n) \\ &\cong \prod_{k = 1}^{n-1}(A/I_k)\times (A/I_n) \\ &= \prod_{k = 1}^n(A/I_k) \end{aligned} が得られる.
(i), (ii) から, 22 以上のすべての整数 nn に対して求める主張が成り立つ.

素イデアル, 極大イデアル

定義《素イデアル, 極大イデアル》

 AA を環とする.
(1)
AA のイデアル p\mathfrak pAA の各元 a,a, bb に対して次の条件を満たすとき, p\mathfrak pAA素イデアル (prime ideal) と呼ぶ.
abpab \in \mathfrak p \Longrightarrowapa \in \mathfrak p または bp.b \in \mathfrak p.
(2)
AA のイデアル m\mathfrak mAA の各イデアル a\mathfrak a に対して次の条件を満たすとき, m\mathfrak mAA極大イデアル (maximal ideal) と呼ぶ. am, ama=A.\mathfrak a \supset \mathfrak m,\ \mathfrak a \neq \mathfrak m \Longrightarrow \mathfrak a = A.

命題《素イデアル, 極大イデアルの特徴付け》

 AA を環, p,\mathfrak p, m\mathfrak mAA のイデアルとする.
(1)
p\mathfrak pAA の素イデアル     \iff A/pA/\mathfrak p は整域
(2)
m\mathfrak mAA の極大イデアル     \iff A/mA/\mathfrak m は体
(3)
m\mathfrak mAA の極大イデアル \Longrightarrow m\mathrm mAA の素イデアル
が成り立つ.

証明

(1)
定義により,
p\mathfrak pAA の素イデアル
    \iffabpab \in \mathfrak p \Longrightarrowapa \in \mathfrak p または bpb \in \mathfrak p’” (a, bA)(a,\ b \in A)
    \iffab+p=0+pab+\mathfrak p = 0+\mathfrak p \Longrightarrowa+p=0+pa+\mathfrak p = 0+\mathfrak p または b+p=0+pb+\mathfrak p = 0+\mathfrak p’” (a, bA)(a,\ b \in A)
    \iff A/pA/\mathfrak p は整域
が成り立つ.
(2)
命題《剰余環のイデアル》により,
m\mathfrak m は極大イデアル
    \iff m\mathfrak m を含む AA のイデアルは m,\mathfrak m, AA に限る
    \iff A/mA/\mathfrak m のイデアルは自明なイデアルに限る
    \iff A/mA/\mathfrak m は体
が成り立つ.
(3)
体は整域であるから,
m\mathfrak m は極大イデアル
    \iff A/mA/\mathfrak m は体
      \;\,\Longrightarrow\;\, A/mA/\mathfrak m は整域
    \iff m\mathfrak m は素イデアル
が成り立つ.

高校数学の問題

整数の性質

問題《11 次不定方程式とイデアル》

 整数全体の集合を Z\mathbb Z で表す. a,a, bZ,b \in \mathbb Z, ab0ab \neq 0 として, I={ax+byx, yZ} I = \{ ax+by \mid x,\ y \in \mathbb Z\} とおく. 各整数 mm に対して mZ={mzzZ}m\mathbb Z = \{ mz \mid z \in \mathbb Z\} と定める. 次のことを示せ.
(1)
c1,c_1, c2Z,c_2 \in \mathbb Z, i1,i_1, i2Ii_2 \in I \Longrightarrow c1i1+c2i2Ic_1i_1+c_2i_2 \in I が成り立つ.
(2)
II に属する最小の正の整数を dd とおく. このとき, I=dZI = d\mathbb Z である.
(3)
a,a, bb の最大公約数を gg とおく. このとき, I=gZI = g\mathbb Z である.

解答例

 こちらを参照.
最終更新日: 2024 年 12 月 13 日