有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

数式を枠からはみ出さずに表示するためには, 画面を横に傾けてください.

対数関数

対数関数

定義《対数》

 $a$ を $1$ と異なる正の数とする.
(1)
正の数 $P$ に対して, $P = a^p$ を満たす実数 $p$ がただ $1$ つ存在する. この実数 $p$ を, $a$ を底とする $P$ の対数 (logarithm of $P$ to the base $a$) と呼び, $\log_aP$ で表す.
(2)
正の数 $x$ を $\log_ax$ に対応させる関数を, $a$ を底とする対数関数 (logarithmic function) と呼ぶ.

定理《対数法則》

 $1$ と異なる正の数 $a,$ 正の数 $P,$ $Q,$ 実数 $k$ に対して
(1)
$\log_aPQ = \log_aP+\log_aQ,$ 
(2)
$\log_a\dfrac{P}{Q} = \log_aP-\log_aQ,$ 
(3)
$\log_aP^k = k\log_aP$ 
が成り立つ.

証明

 $p = \log_aP,$ $q = \log_aQ$ とおく.
(1)
指数法則により \[ PQ = a^pa^q = a^{p+q}\] であるから, 両辺の対数をとると \[\log_aPQ = p+q = \log_aP+\log_aQ\] となる.
(2)
$\dfrac{1}{Q} = Q^{-1} = (a^q)^{-1} = a^{-q}$ から $\log_a\dfrac{1}{Q} = -\log_aQ$ であるので, (1) において $Q$ を $\dfrac{1}{Q}$ に置き換えることで得られる.
(3)
指数法則により \[ P^k = (a^p)^k = a^{kp}\] であるから, 両辺の対数をとると \[\log_aP^k = kp = k\log_aP\] となる.

定理《底の変換公式》

 $a,$ $b,$ $c$ が正の数で, $a,$ $c \neq 1$ のとき, \[\log_ab = \frac{\log_cb}{\log_ca}\] が成り立つ.

証明

 $p = \log_ab$ とおく. $b = a^p$ であるから, 両辺の $c$ を底とする対数をとると \[\log_cb = \log_ca^p = p\log_ca\] となるから, \[\log_ab = p = \frac{\log_cb}{\log_ca}\] が得られる.

定理《対数関数の単調性》

 $1$ と異なる正の数 $a$ に対して,
  • $a > 1,$ $x_1 < x_2$ $\Longrightarrow$ $\log_ax_1 < \log_ax_2$
  • $a < 1,$ $x_1 < x_2$ $\Longrightarrow$ $\log_ax_1 > \log_ax_2$
が成り立つ.

問題《対数関数の凸性に関する対数の比較》

 $a > 1,$ $P > 0,$ $Q > 0$ のとき, \[ A = \log_a(P+Q)-\log_a2, \quad G = \dfrac{1}{2}(\log_aP+\log_aQ)\] の大小を比較せよ.
基本先例$2018/07/04$$2018/07/04$

解答例

\[ A = \log_a\frac{P+Q}{2}, \quad G = \frac{1}{2}\log_aPQ = \log_a\sqrt{PQ}\] であるから, 相加・相乗平均の不等式 \[\frac{P+Q}{2} \geqq \sqrt{PQ}\] と $a > 1$ により \[ A \geqq G\] が成り立つ. 等号は $P = Q$ の場合に限り成り立つ.

参考

 一般に, $\log_ax$ のグラフが上に凸であることから, $x_1,$ $\cdots,$ $x_n > 0,$ $t_1,$ $\cdots,$ $t_n > 0,$ $t_1+\cdots +t_n = 1$ のとき \[\log_a(t_1x_1+\cdots +t_nx_n) \geqq t_1\log_ax_1+\cdots +t_n\log_ax_n\] が成り立つことが知られている. このタイプの不等式は, 「イェンゼンの不等式」(Jensen's inequality) と呼ばれる. 本問では, $n = 2,$ $t_1 = t_2 = \dfrac{1}{2}$ の場合にこの不等式が成り立つことを示した.

問題《底と真数が整数の対数が有理数になる条件》

 $a,$ $b$ を $1$ より大きい整数とする. 次は同値であることを示せ.
(i)
$\log_ab$ は有理数である.
(ii)
整数 $c,$ $m,$ $n$ ($c > 1;$ $m,$ $n$: 互いに素) について $a = c^n,$ $b = c^m$ となる.
(参考: $2005$ お茶の水女子大)
実戦定理$2021/10/09$$2022/05/19$

解答例

 (i) $\Longrightarrow$ (ii): $\log_ab$ が有理数であるとする. このとき, $\log_ab$ は互いに素な正の整数 $m,$ $n$ を用いて \[\log_ab = \frac{m}{n}\] と表され, $a^{\frac{m}{n}} = b$ つまり \[ a^m = b^n \quad \cdots [1]\] が成り立つ. 素因数分解の一意性により, $[1]$ の両辺は同じ素因数をもつから, 相異なる素数 $p_1,$ $\cdots,$ $p_r$ がそのすべてであるとする. $a,$ $b$ は正の整数 $i_1,$ $\cdots,$ $i_r,$ $j_1,$ $\cdots,$ $j_r$ を用いて \[\begin{aligned} a &= p_1{}^{i_1}\cdots p_r{}^{i_r} \quad \cdots [2], \\ b &= p_1{}^{j_1}\cdots p_r{}^{j_r} \quad \cdots [3] \end{aligned}\] と表される. これらを $[1]$ に代入すると \[ p_1{}^{i_1m}\cdots p_r{}^{i_rm} = p_1{}^{j_1n}\cdots p_r{}^{j_rn}\] となるから, 素因数分解の一意性により \[ i_1m = j_1n, \quad \cdots, \quad i_rm = j_rn\] が得られる. $m,$ $n$ は互いに素であるから, ある正の整数 $k_1,$ $\cdots,$ $k_r$ に対して \[\begin{aligned} i_1 = k_1n, \quad &\cdots, \quad i_r = k_rn, \\ j_1 = k_1m, \quad &\cdots, \quad j_r = k_rm \end{aligned}\] が成り立つ. これらを $[2],$ $[3]$ に代入すると, $c = p_1{}^{k_1}\cdots p_r{}^{k_r}$ として, \[\begin{aligned} a &= p_1{}^{k_1n}\cdots p_r{}^{k_rn} = (p_1{}^{k_1}\cdots p_r{}^{k_r})^n = c^n, \\ b &= p_1{}^{k_1m}\cdots p_r{}^{k_rm} = (p_1{}^{k_1}\cdots p_r{}^{k_r})^m = c^m \end{aligned}\] が得られる.
 (ii) $\Longrightarrow$ (i): 整数 $c,$ $m,$ $n$ ($c > 1;$ $m,$ $n$: 互いに素) について $a = c^n,$ $b = c^m$ のとき, \[\log_ab = \frac{\log_cb}{\log_ca} = \frac{\log_cc^m}{\log_cc^n} = \frac{m}{n}\] は有理数になる.
 以上から, (i), (ii) は同値である.

参考

 対数の詳しい近似値は, ネイピア数 $e$ を底とする対数関数の「テイラー展開」 \[\log (1+x) = \sum_{n = 1}^\infty\frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n \quad (-1 < x \leqq 1),\] 対数法則, 底の変換公式を組み合わせることで求められる.

問題《ド・メレの $2$ つのさいころ》

 $2$ つのさいころを $24$ 回ふって, $6$ のぞろ目が少なくとも $1$ 回出れば勝ちというゲームで勝つ確率は $\dfrac{1}{2}$ 未満であることを示せ. \[\log_{10}2 < 0.30103,\ \log_{10}3 < 0.47713,\ \log_{10}7 > 0.84509\] であることは証明なしに使ってよい.
標準歴史$2019/07/13$$2022/05/19$

解答例

 $2$ つのさいころを $24$ 回ふるとき, $6$ のぞろ目が少なくとも $1$ 回出る確率は, $6$ のぞろ目以外の目が $24$ 回続けて出るという事象の余事象の確率であり, $1-\left(\dfrac{35}{36}\right) ^{24}$ である. よって,
$1-\left(\dfrac{35}{36}\right) ^{24} < \dfrac{1}{2},$ $\left(\dfrac{35}{36}\right) ^{24} > \dfrac{1}{2}$ つまり $2\left(\dfrac{35}{36}\right) ^{24} > 1$
を示せばよい. これは, \[\begin{aligned} &\log_{10}2\left(\frac{35}{36}\right) ^{24} \\ &= \log_{10}2+24\log_{10}\frac{35}{36} \\ &= \log_{10}2+24\log_{10}\frac{5\cdot 7}{2^2\cdot 3^2} \\ &= \log_{10}2+24\log_{10}\frac{10\cdot 7}{2^3\cdot 3^2} \\ &= \log_{10}2+24\left( 1-3\log_{10}2-2\log_{10}3+\log_{10}7\right) \\ &= 24-71\log_{10}2-48\log_{10}3+24\log_{10}7 \\ &> 24-71\cdot 0.30103-48\cdot 0.47713+24\cdot 0.84509 \\ &= 0.00679 \\ &> 0 \end{aligned}\] であることから従う. ゆえに, ゲームで勝つ確率は $\dfrac{1}{2}$ 未満である.

参考

 フランスの数学者パスカルは, 貴族のド・メレから,
  • $1$ つのさいころを $4$ 回ふって $6$ の目が出れば勝ち
  • $2$ つのさいころを $24$ 回ふって $6$ のぞろ目が出れば勝ち
という $2$ つのゲームについて, 前者のゲームではよく勝てたが, 後者のゲームではよく負けたのはなぜかという質問を受けた.
 ド・メレは誤って, $1$ つのさいころを $4$ 回ふったとき $6$ の目が出る確率は $1$ 回ふって $6$ の目が出る確率 $\dfrac{1}{6}$ の $4$ 倍の $4\cdot\dfrac{1}{6} = \dfrac{2}{3}$ で, $2$ つのさいころを $24$ 回ふったとき $6$ のぞろ目が出る確率は $1$ 回ふって $6$ のぞろ目が出る確率 $\dfrac{1}{36}$ の $24$ 倍の $24\cdot\dfrac{1}{36} = \dfrac{2}{3}$ であると考えた.
 パスカルは, 出る確率から計算するのではなく, 出ない確率から計算するのだと指摘した. つまり, 前者のゲームで勝つ確率は $1-\left(\dfrac{5}{6}\right) ^4 = 0.51774\cdots > 0.5$ で, 後者のゲームで勝つ確率は $1-\left(\dfrac{35}{36}\right) ^{24} = 0.49140\cdots < 0.5$ である.
 上記の質問は, 確率論の起源になった問題の $1$ つであり,「ド・メレの $2$ つのさいころ」として知られている.
問題一覧 (指数関数・対数関数)指数関数 対数関数