有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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指数関数

指数法則

定義《実数の $0$ 乗と負の数乗》

 実数 $a$ に対して, \[ a^0 = 1\] と定義し, $a \neq 0$ のとき正の整数 $n$ に対して \[ a^{-n} = \left(\frac{1}{a}\right) ^n\] と定義する (このとき, $a^{-n} = \dfrac{1}{a^n}$ が成り立つ).

注意

  • 集合論的には $0^0 = 1$ と定義するのが自然である.
  • $a^{-n} = \dfrac{1}{a^n}$ を定義とする教科書もあるが,「環」の「可逆元」の累乗への一般化を見込めば, 上記のように定義する方がよい ($a^n$ の「可逆性」は初めから保証されていない).

定理《指数法則》

 正の数 $a,$ $b$ と実数 $p,$ $q$ に対して
(1)
$a^pa^q = a^{p+q},$ $\dfrac{a^p}{a^q} = a^{p-q}$
(2)
$(ab)^p = a^pb^p,$ $\left(\dfrac{a}{b}\right) ^p = \dfrac{a^p}{b^p}$
(3)
$(a^p)^q = a^{pq}$ 
が成り立つ.

注意

 上記の公式は (1), (3), (2) の順に書かれることが多いが, (2) は (3) の証明に使われる.

問題《シュタイナーの問題に関する累乗根の比較》

 $\sqrt 2,$ $\sqrt[3]{3},$ $\sqrt[6]{6}$ の大小を比較せよ.
基本先例$2018/07/07$$2018/07/07$

解答例

\[\begin{aligned} (\sqrt 2)^6 &= (2^{\frac{1}{2}})^6 = (2^{\frac{3}{6}})^6 = 2^3 = 8, \\ (\sqrt[3]{3})^6 &= (3^{\frac{1}{3}})^6 = (3^{\frac{2}{6}})^6 = 3^2 = 9, \\ (\sqrt[6]{6})^6 &= 6 \end{aligned}\] であり, $6 < 8 < 9$ であるから, \[\sqrt[6]{6} < \sqrt 2 < \sqrt[3]{3}\] である.

参考

 関数 $y = x^{\frac{1}{x}}$ $(x > 0)$ の最大値を求める問題は「微分積分学におけるシュタイナーの問題」(Steiner's calculus problem) と呼ばれる (こちらを参照.). この関数はネイピア数 $e = 2.718\cdots$ (数学 III) において最大値をとることが知られている. $2$ と $3$ の間でこの関数の増加と減少が入れ替わっていることが, 本問の結果からも推測できる.

問題《$2^{\sqrt 2}$ の無理性にまつわる問題》

 $2^{\frac{1}{2}+\sqrt 2},$ $2^{\sqrt 2}$ の少なくとも一方は無理数であることを示せ. ただし, $\sqrt 2$ が無理数であることは証明なしに使ってよい.
標準先例$2018/05/25$$2022/05/19$

解答例

 $0$ でない実数 $c$ に対して, $c$ が有理数であるならば $c^{-1}$ は有理数であるから, $c^{-1}$ が無理数であるならば $c$ は無理数である. そこで, $y_1 = 2^{\frac{1}{2}+\sqrt 2},$ $y_2 = 2^{-\sqrt 2}$ の少なくとも一方が無理数であることを示す. \[ y_1y_2 = 2^{\sqrt 2+\frac{1}{2}}2^{-\sqrt 2} = 2^{(\sqrt 2+\frac{1}{2})-\sqrt 2} = 2^{\frac{1}{2}} = \sqrt 2\] は無理数であるから, $y_1,$ $y_2$ の両方が有理数ということはあり得ない. よって, $y_1,$ $y_2$ の少なくとも一方は無理数である. ゆえに, $2^{\frac{1}{2}+\sqrt 2},$ $2^{\sqrt 2}$ の少なくとも一方は無理数である.

参考

  • $2^{\sqrt 2}$ のような実数が無理数であるかどうかは, 長い間未解決であった. 次の「ゲルフォント=シュナイダーの定理」(A. Gel'fond, T. Schneider, $1934$ 年) が示されたことにより, $2^{\sqrt 2},$ $\sqrt 2^{\sqrt 2}$ などの実数が無理数であることが明らかになった: $0$ でも $1$ でもない「代数的数」$\alpha$ と, 有理数でない「代数的数」$\beta$ に対して, $\alpha ^\beta$ は「超越数」である. ただし, ある有理数係数多項式 $f(x)$ に対して $f(x) = 0$ の解である複素数を「代数的数」(algebraic number) と呼び,「代数的数」でない複素数を「超越数」(transcendence number) と呼ぶ. 例えば, $\sqrt 2$ は「代数的数」, $2^{\sqrt 2},$ $2^{\frac{1}{2}+\sqrt 2}$ は「超越数」である. また, $(\sqrt 2^{\sqrt 2})^{\sqrt 2}$ は無理数の無理数乗として表される有理数の一例を与える.
  • ちなみに, 上記の定理を使わなくても, 無理数の無理数乗の形に表される有理数の存在が, 次のような議論でわかる.
    (i)
    $a = \sqrt 2^{\sqrt 2}$ が有理数であるとき (実際は偽). $\sqrt 2$ は無理数であるから, $a$ が求める有理数の一例を与える.
    (ii)
    $a$ が無理数であるとき (実際は真). \[ a^{\sqrt 2} = (\sqrt 2^{\sqrt 2})^{\sqrt 2} = (\sqrt 2)^{\sqrt 2\cdot\sqrt 2} = (\sqrt 2)^2 = 2\] が求める有理数の一例を与える.
    いずれにしても, 無理数の無理数乗の形に表される有理数が存在する.

問題《双曲線関数の加法定理》

 $e$ を正の数として, \[ f(x) = \dfrac{e^x+e^{-x}}{2}, \quad g(x) = \dfrac{e^x-e^{-x}}{2}\] と定める. このとき, すべての実数 $\alpha,$ $\beta$ に対して,
(1)
$f(\alpha +\beta ) = f(\alpha )f(\beta )+g(\alpha )g(\beta )$ 
(2)
$g(\alpha +\beta ) = g(\alpha )f(\beta )+f(\alpha )g(\beta )$ 
が成り立つことを示せ.
(参考: $2021$ 大学入学共通テスト)
標準定理$2018/07/31$$2022/07/26$

解答例

(1)
右辺を変形すると, \[\begin{aligned} &f(\alpha )f(\beta )+g(\alpha )g(\beta ) \\ &= \frac{e^\alpha +e^{-\alpha}}{2}\cdot\frac{e^\beta +e^{-\beta}}{2}+\frac{e^\alpha -e^{-\alpha}}{2}\cdot\frac{e^\beta -e^{-\beta}}{2} \\ &= \frac{e^{\alpha +\beta}+e^{\alpha -\beta}+e^{-\alpha +\beta}+e^{-\alpha -\beta}}{4} \\ &\qquad +\frac{e^{\alpha +\beta}-e^{\alpha -\beta}-e^{-\alpha +\beta}+e^{-\alpha -\beta}}{4} \\ &= \frac{e^{\alpha +\beta}+e^{-\alpha -\beta}}{2} \\ &= f(\alpha +\beta ) \end{aligned}\] となる.
(2)
右辺を変形すると, \[\begin{aligned} &g(\alpha )f(\beta )+f(\alpha )g(\beta ) \\ &= \frac{e^\alpha -e^{-\alpha}}{2}\cdot\frac{e^\beta +e^{-\beta}}{2}+\frac{e^\alpha +e^{-\alpha}}{2}\cdot\frac{e^\beta -e^{-\beta}}{2} \\ &= \frac{e^{\alpha +\beta}+e^{\alpha -\beta}-e^{-\alpha +\beta}-e^{-\alpha -\beta}}{4} \\ &\qquad +\frac{e^{\alpha +\beta}-e^{\alpha -\beta}+e^{-\alpha +\beta}-e^{-\alpha -\beta}}{4} \\ &= \frac{e^{\alpha +\beta}-e^{-\alpha -\beta}}{2} \\ &= g(\alpha +\beta ) \end{aligned}\] となる.

参考

  • $e$ がネイピア数であるとき, 関数 $\cosh x = \dfrac{e^x+e^{-x}}{2},$ $\sinh x = \dfrac{e^x-e^{-x}}{2}$ はそれぞれ「双曲線余弦関数」,「双曲線正弦関数」と呼ばれ, 「双曲線正接関数」 $\tanh x = \dfrac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}}$ とあわせて「双曲線関数」(hyperbolic function) と呼ばれる.
  • 三角関数が単位円周 $x^2+y^2 = 1$ を使って定義されるように,「双曲線関数」は双曲線 $x^2-y^2 = 1$ を使って定義され, 三角関数と「双曲線関数」はよく似た性質をもつことが知られている.

指数関数

問題《指数関数を含む不等式と高度合成数》

 正の整数 $x$ の正の約数の個数を $d(x)$ で表す. 次のことを示せ.
(1)
$1 < a \leqq b,$ $s \geqq t$ のとき, $a^sb^t \leqq a^tb^s$ が成り立つ.
(2)
正の整数 $n$ が $n$ 未満のすべての正の整数 $m$ に対して $d(m) < d(n)$ を満たすとする. このとき, $n$ は $e_1 \geqq \cdots \geqq e_r$ なる正の整数 $e_1,$ $\cdots,$ $e_r$ を用いて
$n = p_1{}^{e_1}\cdots p_r{}^{e_r}$ ($p_k$: $k$ 番目の素数)
と素因数分解される.
実戦定理$2019/06/06$$2024/09/09$

解答例

(1)
$1 < a \leqq b,$ $s-t \geqq 0$ であるから $a^{s-t} \leqq b^{s-t}$ が成り立つ. よって, 両辺に $a^tb^t$ を掛けると $a^sb^t \leqq a^tb^s$ が得られる.
(2)
$n$ の素因数分解が \[ n = q_1{}^{f_1}\cdots q_r{}^{f_r}\] ($q_k$: 素数, $q_1 < \cdots < q_r,$ $f_k$: 正の整数) であるとして, $f_1,$ $\cdots,$ $f_r$ を大きい順に並び替えたものを $e_1,$ $\cdots,$ $e_r$ とする. $n' = p_1{}^{e_1}\cdots p_r{}^{e_r}$ とおくと, \[ n' \leqq q_1{}^{e_1}\cdots q_r{}^{e_r} \leqq n\] となる. 実際, $1 < a \leqq b,$ $x \geqq 0$ $\Longrightarrow$ $a^x \leqq b^x$ と $p_k \leqq q_k$ から左側の不等号が成り立ち, $e_k = f_1$ のとき (1) を $a = q_1,$ $b = q_k,$ $s = e_1,$ $t = e_k$ に適用すると \[ q_1{}^{e_1}\cdots q_k{}^{e_k}\cdots q_r{}^{e_r} \leqq q_1{}^{e_k}\cdots q_k{}^{e_1}\cdots q_r{}^{e_r} = q_1{}^{f_1}\cdots q_k{}^{e_1}\cdots q_r{}^{e_r}\] となるから, この操作を続けると右側の不等号が示される. さらに, 約数の和の公式により, \[\begin{aligned} d(n') &= (e_1+1)\cdots (e_r+1) \\ &= (f_1+1)\cdots (f_r+1) = d(n) \end{aligned}\] が成り立つ. 仮定から, $n' \leqq n$ において $n' < n$ は成り立たない. ゆえに, $n = n'$ であり, $n$ は \[ n = p_1{}^{e_1}\cdots p_r{}^{e_r} \quad (e_1 \geqq \cdots \geqq e_r)\] と表される.

参考

  • (2) の条件を満たす正の整数 $n$ を「高度合成数」(highly composite number) と呼ぶ. 「高度合成数」を小さい順に列挙すると $1,$ $2,$ $4,$ $6,$ $12,$ $24,$ $36,$ $48,$ $60,$ $120,$ $180,$ $240,$ $360,$ $\cdots$ となる. 約数が多いと便利なため, “ $1$ 日$= 24$ 時間 ” の $24,$ “ $1$ 時間$= 60$ 分 ” の $60,$ “ $1$ 周$= 360^\circ$ ” の $360$ など,「高度合成数」の多くが度量衡に利用されている.
  • $1! = 1,$ $2! = 2,$ $3! = 6,$ $4! = 24,$ $5! = 120,$ $6! = 720,$ $7! = 5040$ は「高度合成数」であるが, $n \geqq 8$ のとき $n!$ は「高度合成数」でないことが知られている (こちらを参照).
  • 与えられた正の整数 $n$ に対して, $n$ 以下のすべての素数の積を $n\#$ で表し, この形の整数を「素数階乗」(primorial) と呼ぶ. $5040 = (2\# )^2\cdot 3\#\cdot 7\#$ のように, すべての「高度合成数」は「素数階乗」の累乗の積として表されることが知られている.
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