有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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実数の大小関係・絶対値

実数の大小関係

 実数の大小関係に関する基本的な性質はすべて, 次の公理から導かれる.

定理《実数の順序に関する公理》

 すべての実数 $a,$ $b,$ $c$ に対して,
(O0)
全順序性:    $a$ は $a > 0,$ $a = 0,$ $a < 0$ のいずれかを満たす
(O1)
反射法則:    $a \geqq a$ 
(O2)
反対称法則:   $a \geqq b,$ $a \leqq b$ $\Longrightarrow$ $a = b$ 
(O3)
推移法則:    $a \geqq b,$ $b \geqq c$ $\Longrightarrow$ $a \geqq c$ 
(O4)
加法との両立性: $a \geqq b$ $\Longrightarrow$ $a+c \geqq b+c$ 
(O5)
乗法との両立性: $a \geqq 0,$ $b \geqq 0$ $\Longrightarrow$ $ab \geqq 0$ 
が成り立つ.

注意

  • 簡約法則 $ab = 0$ $\Longrightarrow$ $a = 0$ または $b = 0$ により, (O5) において $a \geqq 0,$ $b \geqq 0$ のとき $ab = 0$ が成り立つのは $a = b = 0$ の場合に限る.
  • (O5) については, $a \geqq b,$ $c > 0$ $\Longrightarrow$ $ac \geqq bc$ を公理に採用することも多い.

問題《実数の順序に関する公理から導かれる性質》

 $a,$ $b,$ $c,$ $d$ を実数とする. 実数の四則演算の性質, 大小関係に関する上記の性質 (O0)~(O5) のみを使って,
(1) $a \geqq 0$ $\Longrightarrow$ $-a \leqq 0,$
$a \leqq 0$ $\Longrightarrow$ $-a \geqq 0$
(2) $a^2 \geqq 0,$ 特に $1 > 0$
(3) $a > 0$ $\Longrightarrow$ $\dfrac{1}{a} > 0,$
$a < 0$ $\Longrightarrow$ $\dfrac{1}{a} < 0$
(4) $a \leqq 0,$ $b \leqq 0$ $\Longrightarrow$ $ab \geqq 0,$
$a \geqq 0,$ $b \leqq 0$ $\Longrightarrow$ $ab \leqq 0$
(5) $a \geqq b$ $\Longrightarrow$ $a-b \geqq 0,$ $-b \geqq -a,$ $0 \geqq b-a$
(6) $a \geqq b$ $\Longrightarrow$ $a\pm c \geqq b\pm c$ (複号同順)
(7) $a \geqq b,$ $c \geqq d$ $\Longrightarrow$ $a+c \geqq b+d$
(5)' $a \geqq b > 0$ $\Longrightarrow$ $\dfrac{a}{b} \geqq 1,$ $\dfrac{1}{b} \geqq \dfrac{1}{a},$ $1 \geqq \dfrac{b}{a}$
(6)' $a \geqq b,$ $c > 0$ $\Longrightarrow$ $ac \geqq bc,$ $\dfrac{a}{c} \geqq \dfrac{b}{c},$
$a \geqq b,$ $c < 0$ $\Longrightarrow$ $ac \leqq bc,$ $\dfrac{a}{c} \leqq \dfrac{b}{c}$
(7)' $a \geqq b > 0,$ $c \geqq d > 0$ $\Longrightarrow$ $ac \geqq bd$
が成り立つことを示せ.
基本定理$2022/05/27$$2022/06/02$

解答例

(1)
  • $a \geqq 0$ のとき, (O4) により両辺に $-a$ を加えた不等式 \[ a+(-a) \geqq 0+(-a),\] $0 \geqq -a$ つまり $-a \leqq 0$ が成り立つ.
  • $a \leqq 0$ つまり $0 \geqq a$ のとき, (O4) により両辺に $-a$ を加えた不等式 \[ 0+(-a) \geqq a+(-a)\] つまり $-a \geqq 0$ が成り立つ.
(2)
(i)
$a \geqq 0$ のとき. (O5) により $a^2 \geqq 0$ が成り立つ.
(ii)
$a < 0$ のとき. (1) により $-a > 0$ であるから, \[ a^2 = (-a)^2 > 0\] が成り立つ.
(i), (ii) から, $a^2 \geqq 0$ が成り立つ. よって, 特に \[ 1 = 1^2 > 0\] が成り立つ.
(3)
$a \neq 0$ のとき, (2) により $\left(\dfrac{1}{a}\right) ^2 > 0$ が成り立つ.
  • $a > 0$ のとき. (O5) により \[\frac{1}{a} = a\cdot\left(\dfrac{1}{a}\right) ^2 > 0\] が成り立つ.
  • $a < 0$ のとき. (1) により $-a > 0$ であるから (O5) により \[ -\frac{1}{a} = -a\cdot\left(\dfrac{1}{a}\right) ^2 > 0\] が成り立ち, (1) により $\dfrac{1}{a} = -\left( -\dfrac{1}{a}\right) < 0$ が成り立つ.
(4)
  • $a \leqq 0,$ $b \leqq 0$ のとき, (1) により $-a \geqq 0,$ $-b \geqq 0$ であるから, \[ ab = (-a)(-b) \geqq 0\] が成り立つ.
  • $a \geqq 0,$ $b \leqq 0$ のとき, (1) により $-b \geqq 0$ であるから (O5) により \[ -ab = a(-b) \geqq 0\] が成り立ち, (1) により $ab = -(-ab) \leqq 0$ が成り立つ.
(5)
$a \geqq b$ のとき, (O4) により両辺に $-b$ を加えた不等式 \[ a+(-b) \geqq b+(-b)\] つまり $a-b \geqq 0$ が成り立つ. このとき, (O4) により両辺に $-a$ を加えた不等式 \[ (a-b)+(-a) \geqq 0-a\] つまり $-b \geqq -a$ が成り立つ. さらに, (O4) により両辺に $b$ を加えた不等式 \[ -b+b \geqq -a+b\] つまり $0 \geqq b-a$ が成り立つ.
(6)
$a \geqq b$ のとき, (O4) により両辺に $\pm c$ を加えた不等式 \[ a\pm c \geqq b\pm c\] (複号同順) が成り立つ.
(7)
$a \geqq b,$ $c \geqq d$ のとき, (O4) によりそれぞれの両辺に $c,$ $b$ を加えた不等式 \[ a+c \geqq b+c, \quad b+c \geqq b+d\] が成り立つから, (O3) により $a+c \geqq b+d$ が得られる.
(5')
$a \geqq b > 0$ のとき, (3) により $\dfrac{1}{b} > 0$ であるから, (O5) により両辺に $\dfrac{1}{b}$ を掛けた不等式 \[ a\cdot\frac{1}{b} \geqq b\cdot\frac{1}{b}\] つまり $\dfrac{a}{b} \geqq 1$ が成り立つ. このとき, (3) により $\dfrac{1}{a} > 0$ であるから, (O5) により両辺に $\dfrac{1}{a}$ を掛けた不等式 \[\frac{a}{b}\cdot\frac{1}{a} \geqq 1\cdot\frac{1}{a}\] つまり $\dfrac{1}{b} \geqq \dfrac{1}{a}$ が成り立つ. さらに, (O5) により両辺に $b$ を掛けた不等式 \[\frac{1}{b}\cdot b \geqq \frac{1}{a}\cdot b\] つまり $1 \geqq \dfrac{b}{a}$ が成り立つ.
(6)'
  • $a \geqq b,$ $c > 0$ のとき, (5) により $a-b \geqq 0,$ (3) により $\dfrac{1}{c} > 0$ であるから (O5) により \[ ac-bc = (a-b)c \geqq 0, \quad \frac{a}{c}-\frac{b}{c} = (a-b)\cdot\frac{1}{c} \geqq 0\] が成り立ち, (O4) により両辺に $bc,$ $\dfrac{b}{c}$ を加えた不等式 $ac \geqq bc,$ $\dfrac{a}{c} \geqq \dfrac{b}{c}$ が成り立つ.
  • $a \geqq b,$ $c < 0$ のとき, (5) により $a-b \geqq 0,$ (1), (3) により $-c > 0,$ $-\dfrac{1}{c} > 0$ であるから (O5) により \[ -ac\!+\!bc = (a\!-\!b)(-c) \geqq 0, \!\quad\! -\frac{a}{c}\!+\!\frac{b}{c} = (a\!-\!b)\left(-\frac{1}{c}\right) \geqq 0\] が成り立ち, (O4) により両辺に $ac,$ $\dfrac{a}{c}$ を加えた不等式 $bc \geqq ac,$ $\dfrac{b}{c} \geqq \dfrac{a}{c}$ つまり $ac \leqq bc,$ $\dfrac{a}{c} \leqq \dfrac{b}{c}$ が成り立つ.
(7)'
$a \geqq b > 0,$ $c \geqq d > 0$ のとき, (O5) によりそれぞれの両辺に $c,$ $b$ を掛けた不等式 \[ ac \geqq bc, \quad bc \geqq bd\] が成り立つから, (O3) により $ac \geqq bd$ が得られる.

参考

  • 四則演算が定義され, 結合法則, 交換法則, 分配法則を満たす集合で, 複数の要素をもつものを「体」(field) と呼ぶ. 特に, (O0)~(O5) を満たす関係 $\geqq\,(\leqq )$ が定義された「体」を「順序体」(ordered field) と呼ぶ. 有理数全体, 実数全体はそれぞれ,「有理数体」,「実数体」と呼ばれる「順序体」をなす.
  • (O1)~(O3) を満たす関係 $\geqq\,(\leqq )$ を「順序」(order) と呼び, (O0) を満たす「順序」を「全順序」(total order) と呼ぶ.
  • (O0)~(O5) から多くの「順序体」に共通する性質が導かれる.

絶対値

定義《絶対値》

 実数 $a$ に対して, $a$ の絶対値 $|a|$ (absolute value) を,
$a \geqq 0$ のとき $|a| = a,$ $a < 0$ のとき $|a| = -a$
により定める.

定理《絶対値の性質》

 実数 $a,$ $b,$ $x$ に対して,
(0)
正値性:  $|a| \geqq 0$ 
(1)
非退化性: $|a| = 0$ $\Longrightarrow$ $a = 0$ 
(2)
偶性:   $|-a| = |a|$ 
(3)
劣加法性: $|a+b| \leqq |a|+|b|$ 
(4)
べき等性: $||a|| = |a|$ 
(5)
乗法性:  $|ab| = |a||b|,$ 特に $|a^2| = |a|^2$
     $\left|\dfrac{a}{b}\right| = \dfrac{|a|}{|b|}$ $(b \neq 0)$
(6)
$a \geqq 0$ のとき, \[\begin{aligned} |x| \leqq a &\iff -a \leqq x \leqq a, \\ |x| \geqq a &\iff x \leqq -a\ \text{または}\ a \leqq x \end{aligned}\]
が成り立つ.

問題《$2$ 数の最大値・最小値と絶対値の関係》

 実数 $a,$ $b$ に対して, $a,$ $b$ の大きい方の値を $\max\{ a,b\}$ で, 小さい方の値を $\min\{ a,b\}$ で表す.
(1)
$\max\{ a,b\} +\min\{ a,b\} = a+b$ 
(2)
$|a| = \max\{ a,-a\} = -\min\{ a,-a\}$ 
(3)
$\max\{ a,b\} = \dfrac{a+b+|a-b|}{2},$ $\min\{ a,b\} = \dfrac{a+b-|a-b|}{2}$ 
が成り立つことを示せ.
標準定理$2021/03/04$$2022/04/14$

解答例

(1)
(i)
$a \geqq b$ のとき. $\max\{ a,b\} = a,$ $\min\{ a,b\} = b$ であるので, \[\max\{ a,b\} +\min\{ a,b\} = a+b\] が成り立つ.
(ii)
$a < b$ のとき. $\max\{ a,b\} = b,$ $\min\{ a,b\} = a$ であるので, \[\max\{ a,b\} +\min\{ a,b\} = b+a = a+b\] が成り立つ.
(i), (ii) から, $\max\{ a,b\} +\min\{ a,b\} = a+b$ が成り立つ.
(2)
(i)
$a \geqq 0$ のとき. $-a \leqq 0$ から $a \geqq -a$ であるので, \[\begin{aligned} \max\{ a,-a\} &= a = |a|, \\ -\min\{ a,-a\} &= -(-a) = a = |a| \end{aligned}\] が成り立つ.
(ii)
$a < 0$ のとき. $-a > 0$ から $a < -a$ であるので, \[\begin{aligned} \max\{ a,-a\} &= -a = |a|, \\ -\min\{ a,-a\} &= -a = |a| \end{aligned}\] が成り立つ.
(i), (ii) から, $|a| = \max\{ a,-a\} = -\min\{ a,-a\}$ が成り立つ.
(3)
(i)
$a \geqq b$ のとき. $a-b \geqq 0$ から $|a-b| = a-b$ であるので, \[\frac{a+b+|a-b|}{2} = \frac{a+b+(a-b)}{2} = a = \max\{ a,b\}\] が成り立つ.
(ii)
$a < b$ のとき. $a-b < 0$ から $|a-b| = -(a-b)$ であるので, \[\frac{a+b+|a-b|}{2} = \frac{a+b-(a-b)}{2} = b = \max\{ a,b\}\] が成り立つ.
(i), (ii) から, $\max\{ a,b\} = \dfrac{a+b+|a-b|}{2}$ が成り立つ. これと (1) により, \[\begin{aligned} &\min\{ a,b\} = a+b-\max\{ a,b\} \\ &= a+b-\frac{a+b+|a-b|}{2} = \frac{a+b-|a-b|}{2} \end{aligned}\] が得られる.

別解

(3)
(i)
$a \geqq b$ のとき. $a-b \geqq 0$ から $|a-b| = a-b$ であるので, \[\frac{a+b-|a-b|}{2} = \frac{a+b-(a-b)}{2} = b = \min\{ a,b\}\] が成り立つ.
(ii)
$a < b$ のとき. $a-b < 0$ から $|a-b| = -(a-b)$ であるので, \[\frac{a+b-|a-b|}{2} = \frac{a+b+(a-b)}{2} = a = \min\{ a,b\}\] が成り立つ.
(i), (ii) から, $\min\{ a,b\} = \dfrac{a+b-|a-b|}{2}$ が成り立つ.

参考

  • 上記の等式により, $2$ 変数関数 $\max\{ x,y\},$ $\min\{ x,y\}$ と $1$ 変数関数 $|x|$ の $3$ つの関数のうち $1$ つが定まれば, 残りの $2$ つも定まる.
  • 実数からなる集合 $S$ に属する要素の最大値, 最小値をそれぞれ $\max S,$ $\min S$ で表す.
  • 実数値関数 $f(x),$ $g(x)$ が連続 (関数と極限: 理系) であるとき, $x$ を $\max\{ f(x),g(x)\},$ $\min\{ f(x),g(x)\}$ に対応させる関数も連続であることが, 上記の等式を利用して証明される.
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