有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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剰余の定理・因数定理

剰余の定理

定理《剰余の定理》

 多項式 $f(x)$ を $x-\alpha$ で割ったときの余りは $f(\alpha )$ である.

証明

 $f(x)$ を $x-\alpha$ で割ったときの商を $q(x),$ 余りを $r$ とおくと, \[ f(x) = (x-\alpha )q(x)+r\] となる. このとき, $x = \alpha$ を代入すると, $f(\alpha ) = r$ となる.

問題《多項式を $1$ 次多項式の積で割った余り》

 $\alpha,$ $\beta$ を相異なる実数とする. 実数係数多項式 $f(x)$ を $(x-\alpha )(x-\beta )$ で割った余りを, $\alpha,$ $\beta,$ $f(\alpha ),$ $f(\beta )$ を用いて表せ.
基本定理$2022/08/24$$2022/08/24$

解答例

 $f(x)$ を $(x-\alpha )(x-\beta )$ で割った商を $q(x),$ 余りを $ax+b$ ($a,$ $b$: 実数) とおく. このとき, \[ f(x) = (x-\alpha )(x-\beta )q(x)+ax+b\] が成り立つ. $\alpha,$ $\beta$ を代入すると, \[ f(\alpha ) = a\alpha +b, \quad f(\beta ) = a\beta +b\] が得られる. 辺々を引くと \[ (\beta -\alpha )a = f(\beta )-f(\alpha )\] となるから, 両辺を $\beta -\alpha\,(\neq 0)$ で割ると \[ a = \frac{f(\beta )-f(\alpha )}{\beta -\alpha}\] よって \[ b = f(\alpha )-\frac{f(\beta )-f(\alpha )}{\beta -\alpha}\cdot\alpha = \frac{\beta f(\alpha )-\alpha f(\beta )}{\beta -\alpha}\] が得られる. ゆえに, 求める余りは \[\frac{f(\beta )-f(\alpha )}{\beta -\alpha}x+\frac{\beta f(\alpha )-\alpha f(\beta )}{\beta -\alpha} = \frac{(x-\alpha )f(\beta )-(x-\beta )f(\alpha )}{\beta -\alpha}\] である.

因数定理

定理《因数定理》

 多項式 $f(x)$ に対して,
$f(x)$ が $1$ 次式 $x-\alpha$ で割り切れる $\iff$ $f(\alpha ) = 0$
が成り立つ.

証明

 剰余の定理により, $f(x)$ を $x-\alpha$ で割った余りは $f(\alpha )$ であるから,
$f(x)$ が $x-\alpha$ で割り切れる $\iff$ $f(\alpha ) = 0$
が成り立つ.

問題《虚数単位の最小多項式》

 有理数係数多項式 $f(x)$ に対して, $f(i) = 0$ であるならば, $f(x)$ は $x^2+1$ で割り切れることを示せ. また, $x^2+1$ はこの条件を満たす次数最小の有理数係数多項式であることを示せ.
(参考: $2022$ 宮城教育大)
標準先例$2016/07/20$$2022/07/07$

解答例

 $f(i) = 0$ であるとする. このとき, 因数定理により, $f(x)$ は $x-i$ で割り切れる. また, $f(x) = \displaystyle\sum_{k = 0}^na_kx^k$ ($a_k$: 有理数) とおくと, \[\begin{aligned} f(-i) &= \sum_{k = 0}^na_k(-i)^k = \sum_{k = 0}^na_k{\bar i}^k = \overline{\sum_{k = 0}^na_ki^k} \\ &= \overline{f(i)} = \bar 0 = 0 \end{aligned}\] となるから, 因数定理により $f(x)$ は $x+i$ で割り切れる. ゆえに, $f(x)$ は $(x+i)(x-i) = x^2+1$ で割り切れる. このとき, $f(x)$ は有理数係数多項式 $q(x)$ を用いて $f(x) = (x^2+1)q(x)$ と表せるから, $f(x)$ の次数は $2$ 以上である. ゆえに, $x^2+1$ は条件を満たす次数最小の有理数係数多項式である.

前半の別解

 $f(x)$ を $x^2+1$ で割った商を $q(x),$ 余りを $a+bx$ ($a,$ $b$: 有理数) とおく. $f(i) = 0$ であるとき, $f(x) = (x^2+1)q(x)+a+bx$ に $x = i$ を代入すると
$(i^2+1)q(i)+a+bi = 0$ つまり $a+bi = 0$
となり, $a,$ $b$ は有理数 (よって実数) であることから $a = b = 0$ となるので, $f(x)$ は $x^2+1$ で割り切れる.

参考

 $\mathbb Q$ を有理数全体の集合, $\alpha$ を複素数とする. $f(\alpha ) = 0$ を満たす有理数係数多項式 $f(x)$ が存在するとき, $\alpha$ を「代数的数」(algebraic number) と呼び, このような多項式のうち次数が最小で最高次の係数が $1$ であるものを $\alpha$ の $\mathbb Q$ 上の「最小多項式」(minimal polynomial) と呼ぶ. 一般に, $\alpha$ の $\mathbb Q$ 上の「最小多項式」は $f(\alpha ) = 0$ を満たす $\mathbb Q$ 上の「既約多項式」$f(x)$ (こちらを参照) であることが知られている. 「最小多項式」の概念は, 方程式の理論で基本的な役割を果たす.

問題《一致の定理とラグランジュの補間公式》

 次のことを示せ.
(1)
$n$ 次以下の多項式関数 $f(x),$ $g(x)$ が $n+1$ 個の異なる点 $x = x_0,$ $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ でそれぞれ同じ値をとるならば, $f(x),$ $g(x)$ は関数として一致する.
(2)
グラフが $x$ 座標の異なる $3$ 点 $\mathrm P_0(x_0,y_0),$ $\mathrm P_1(x_1,y_1),$ $\mathrm P_2(x_2,y_2)$ を通る $2$ 次関数は \[\begin{aligned} f(x) &= y_0\frac{(x-x_1)(x-x_2)}{(x_0-x_1)(x_0-x_2)}+y_1\frac{(x-x_2)(x-x_0)}{(x_1-x_2)(x_1-x_0)} \\ &\qquad +y_2\frac{(x-x_0)(x-x_1)}{(x_2-x_0)(x_2-x_1)} \end{aligned}\] と一致する.
標準定理$2019/08/29$$2022/05/18$

解答例

(1)
$n$ 次以下の多項式関数 $f(x),$ $g(x)$ が $f(x_k) = g(x_k)$ $(0 \leqq k \leqq n)$ を満たすとする. このとき, $f(x_k)-g(x_k) = 0$ となるから, 因数定理により, ある実数 $a$ に対して \[ f(x)-g(x) = a(x-x_0)(x-x_1)\cdots (x-x_n)\] となる. ここで, $f(x)-g(x)$ は $n$ 次以下または $0$ であり, $(x-x_0)(x-x_1)\cdots (x-x_n)$ は $n+1$ 次であるから, $f(x)-g(x) = 0,$ $a = 0$ とならざるを得ない. ゆえに, $f(x) = g(x)$ となる.
(2)
\[\begin{aligned} f(x_0) &= y_0\frac{(x_0-x_1)(x_0-x_2)}{(x_0-x_1)(x_0-x_2)}+y_1\frac{(x_0-x_2)\cdot 0}{(x_1-x_2)(x_1-x_0)} \\ &\qquad +y_2\frac{0\cdot (x_0-x_1)}{(x_2-x_0)(x_2-x_1)} \\ &= y_0 \end{aligned}\] であり, 同様に $f(x_1) = y_1,$ $f(x_2) = y_2$ が成り立つから, グラフが $3$ 点 $\mathrm P_0,$ $\mathrm P_1,$ $\mathrm P_2$ を通る $2$ 次関数の $1$ つとして $f(x)$ が挙げられる. このような $2$ 次関数は, 異なる $3$ 点 $x = x_0,$ $x_1,$ $x_2$ でそれぞれ $f(x)$ と同じ値 $y_0,$ $y_1,$ $y_2$ をとるから, (1) により $f(x)$ と一致する.

参考

  • (1) は, 多項式関数に関する「一致の定理」(identity theorem, coincidence principle) として知られている.
  • (2) について一般に, グラフが $x$ 座標の異なる $n+1$ 個の点 $(x_0,y_0),$ $(x_1,y_1),$ $\cdots,$ $(x_n,y_n)$ を通る $n$ 次関数は \[\begin{aligned} f(x) &= \sum_{k = 0}^ny_k\prod_{l \neq k}\frac{x-x_l}{x_k-x_l} \end{aligned}\] と表される. ここで, $\displaystyle\prod_{l \neq k}\frac{x-x_l}{x_k-x_l}$ は $l \neq k,$ $0 \leqq l \leqq n$ なる整数 $l$ にわたる $\dfrac{x-x_l}{x_k-x_l}$ の積を表す. この公式は「ラグランジュの補間公式」(Lagrange's interpolation formula) と呼ばれ, 数値解析の分野で重要な役割を果たす.
問題一覧 (複素数と方程式)複素数 解と係数の関係
剰余の定理・因数定理 高次方程式