等差数列
等差数列
定義《等差数列》
隣り合う $2$ 項の差が一定である, すなわちある定数 $d$ について
$a_{n+1}-a_n = d$ つまり $a_{n+1} = a_n+d$
を満たす数列 $\{ a_n\}$ を等差数列 (arithmetic sequence, progression) と呼び,
$d$ をその公差 (common difference) と呼ぶ.
定理《等差数列の一般項による特徴付け》
- (1)
- 数列 $\{ a_n\}$ が初項 $a,$ 公差 $d$ の等差数列であるとき, \[ a_n = a+(n-1)d\] である.
- (2)
- 数列 $\{ a_n\}$ に対して,
$\{ a_n\}$ が等差数列$\iff$ $a_n$ は $n$ の $1$ 次式または定数が成り立つ.
証明
- (1)
- $n$ に関する数学的帰納法で示す.
- (i)
- $a_1 = a = a+(1-1)d$ から, $n = 1$ のとき成り立つ.
- (ii)
- $n = k$ ($k$: 正の整数) のとき \[ a_n = a+(n-1)d \quad \cdots [\ast ]\] が成り立つとすると, \[\begin{aligned} &a_{k+1} = a_k+d = \{ a+(k-1)d\} +d \\ &= a+\{ (k-1)+1\} d = a+\{ (k+1)-1\} d \end{aligned}\] となるから, $n = k+1$ のとき $[\ast ]$ が成り立つ.
- (2)
- $(\Longrightarrow )$ 初項 $a,$ 公差 $d$ の等差数列 $\{ a_n\}$ の一般項 $a_n$ は,
\[ a_n = a+(n-1)d = dn+(a-d)\]
であるから, $d \neq 0$ のとき $n$ の $1$ 次式, $d = 0$ のとき定数となる.
$(\Longleftarrow )$ 数列 $\{ a_n\}$ の一般項 $a_n$ が $1$ 次式または定数ならば, 定数 $d,$ $e$ を用いて $a_n = dn+e$ と表せて \[ a_{n+1}-a_n = \{ d(n+1)+e\}-(dn+e) = d\] となるから, $\{ a_n\}$ は公差 $d$ の等差数列となる.
問題《等差素数列の性質》
次のことを示せ.
- (A)
- 各項が素数であり, 公差が正である項数 $n$ の等差数列の初項 $p$ は $n$ 以上である.
- (B)
- 各項が素数であり, 公差が $0$ でない等差数列の項数は有限である.
解答例
- (A)
- 初項が素数 $p,$ 公差が正の整数 $d,$ 項数が $n$ の等差数列において, $p+pd = p(1+d)$ は素数でないから, 各項が素数であるとき, \[ p+(n-1)d < p+pd\] であり, $n-1 < p$ つまり $p \geqq n$ が成り立つ.
- (B)
- (i)
- 初項が素数 $p,$ 公差が正の整数 $d,$ 項数が無限の等差数列の第 $n$ 項 \[ p+(n-1)d = p\left( 1+\frac{n-1}{p}d\right)\] は, $n-1$ が $p$ の倍数のとき, 合成数である.
- (ii)
- 公差が負のとき, 項数が無限の等差数列は負の数を含む.
参考
公差が $0$ でない整数, 各項が素数の等差数列を「等差素数列」(prime arithmetic progression) と呼ぶ.
公差が正の「等差素数列」を考えることが多い.
定理《等差中項》
$3$ 数 $a,$ $b,$ $c$ がこの順に等差数列をなすとき,
\[ 2b = a+c\]
が成り立つ.
証明
$b-a = c-b$ を整理すると, $2b = a+c$ が得られる.
問題《公差 $2$ の等差素数列》
各項が素数であり, 公差が $2,$ 項数が $3$ 以上である等差数列は $(3,5,7)$ に限ることを示せ.
ただし, 項数が有限の数列は, $(3,5,7)$ のように, 初項から末項まで順に列記したものをかっこ $(\ )$ でくくって表すものとする.
(参考: $2004$ 早稲田大)
解答例
各項が素数であるような公差 $2$ の等差数列において, 連続する $3$ 項は, ある整数 $p$ を用いて $p,$ $p+2,$ $p+4$ の形に表される素数である.
- (i)
- $p$ が $3$ の倍数のとき. $p$ と $3$ は素数であるから, $p = 3.$ このとき, $p+2 = 5$ と $p+4 = 7$ も素数である.
- (ii)
- $p$ を $3$ で割った余りが $1$ であるとき. $p+2$ は $3$ の倍数であり, $p+2$ と $3$ は素数であるから, $p+2 = 3.$ このとき, $p = 1.$ これは, $p$ が素数であることに反する.
- (iii)
- $p$ を $3$ で割った余りが $2$ であるとき. $p+4$ は $3$ の倍数であり, $p+4$ と $3$ は素数であるから, $p+4 = 3.$ このとき, $p = -1.$ これは, $p$ が素数であることに反する.
別解
各項が素数であるような公差 $2$ の等差数列において, 連続する $3$ 項は, ある整数 $p$ を用いて $p-2,$ $p,$ $p+2$ の形に表される素数である.
\[\begin{aligned}
(p-2)p(p+2) &= p^3-4p = (p^3-p)-3p \\
&= (p-1)p(p+1)-3p
\end{aligned}\]
であり, 連続する $3$ 個の整数の積 $(p-1)p(p+1)$ は $3$ で割り切れるから, $(p-2)p(p+2)$ は $3$ で割り切れる.
このことと $p-2,$ $p,$ $p+2$ と $3$ が素数であることから, $p-2 = 3,$ $p = 3,$ $p+2 = 3$ のいずれかが成り立つ.
- (i)
- $p-2 = 3$ つまり $p = 5$ のとき. $p$ と $p+2 = 7$ も素数である.
- (ii)
- $p = 3$ のとき. $p-2 = 1$ は素数でない. これは矛盾である.
- (iii)
- $p+2 = 3$ のとき. $p = 1$ は素数でない. これは矛盾である.
参考
- 前問で示した通り,「等差素数列」の項数は有限であるが, 次の「グリーン=タオの定理」(Green–Tao theorem) が証明されている ($2004$ 年): 各正の整数 $n$ に対して, 項数 $n$ の「等差素数列」が存在する. この定理の証明は構成的でないため, 具体的に項数の大きい「等差素数列」を見つけるのは難しい. 実際に「等差素数列」であると確認された数列の項数の世界記録は $26$ である ($2010$ 年).
- 公差が $1$ で項数が最大の「等差素数列」は, 明らかに $(2,3)$ である. 本問では, この次に非自明な, 公差が $2$ で項数が最大の「等差素数列」を決定した.
- $(p,p+2)$ の形に表される $2$ 個の素数の組を「双子素数」(twin prime) と呼び, $(p,p+2,p+6)$ または $(p,p+4,p+6)$ の形に表される $3$ 個の素数の組を「三つ子素数」(prime triplet) と呼ぶ. $(p,p+2,p+4)$ の形の素数の組を「三つ子素数」と呼ばないのは, この形の素数の組が $(3,5,7)$ に限るからである. 「双子素数」と「三つ子素数」が無限に存在するかどうかは未解決である ($2021$ 年 $12$ 月現在).
問題《$3$ 辺の長さが等差数列をなす直角三角形》
$3$ 辺の長さが等差数列をなすような直角三角形の $3$ 辺の長さの比を求めよ.
解答例
条件を満たす直角三角形の辺の長さを $a-d,$ $a,$ $a+d$ $(a > d > 0)$ とおく.
このとき, 三平方の定理により
\[\begin{aligned}
(a-d)^2+a^2 &= (a+d)^2 \\
a^2-2ad+d^2+a^2 &= a^2+2ad+d^2 \\
a^2 &= 4ad
\end{aligned}\]
が成り立つから, 両辺を $a\,(> 0)$ で割ると
\[ a = 4d\]
となる.
ゆえに, 条件を満たす直角三角形の $3$ 辺の長さの比は
\[ (a-d):a:(a+d) = 3d:4d:5d = 3:4:5\]
である.
問題《調和数列をなす $3$ 数》
相異なる正の数 $a,$ $b,$ $c$ について, $\dfrac{1}{a},$ $\dfrac{1}{b},$ $\dfrac{1}{c}$ がこの順に等差数列をなすとする.
- (1)
- $b = \dfrac{2ac}{a+c}$
- (2)
- $\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{c} = \dfrac{1}{b-c}-\dfrac{1}{a-b}$
解答例
- (1)
- 仮定から, \[\frac{1}{b}-\frac{1}{a} = \frac{1}{c}-\frac{1}{b}\] が成り立つ. 両辺に $abc$ を掛けると \[ ac-bc = ab-ac\] となるから, $2ac = (a+c)b$ つまり \[ b = \frac{2ac}{a+c}\] が成り立つ.
- (2)
- (1) の結果から, \[\begin{aligned} &\frac{1}{b-c}-\frac{1}{a-b} = \frac{1}{\dfrac{2ac}{a+c}-c}-\frac{1}{a-\dfrac{2ac}{a+c}} \\ &= \frac{a+c}{2ac-c(a+c)}-\frac{a+c}{a(a+c)-2ac} \\ &= \frac{a+c}{c(a-c)}-\frac{a+c}{a(a-c)} = (a+c)\frac{a-c}{ac(a-c)} \\ &= (a+c)\frac{1}{ac} = \frac{1}{a}+\frac{1}{c} \end{aligned}\] が得られる.
参考
- 各項が $0$ でない数列 $\{ a_n\}$ について, $\left\{\dfrac{1}{a_n}\right\}$ が等差数列になるとき, $\{ a_n\}$ を「調和数列」(harmonic sequence) と呼ぶ.
- $x,$ $y\,(\neq 0)$ の逆数の相加平均の逆数 $\dfrac{2}{\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}} = \dfrac{2xy}{x+y}$ を $x,$ $y$ の「調和平均」(harmonic mean) と呼ぶ.
等差数列の和
定理《等差数列の和》
公差 $d$ の等差数列 $\{ a_n\}$ の初項から第 $n$ 項までの和は,
\[\sum_{k = 1}^na_k = \frac{n}{2}\{ 2a_1+(n-1)d\} = \frac{n}{2}(a_1+a_n)\]
である.
証明
\[\begin{aligned}
2\sum_{k = 1}^na_k &= \sum_{k = 1}^na_k+\sum_{k = 1}^na_{n+1-k} \\
&= \sum_{k = 1}^n(a_k+a_{n+1-k}) \\
&= \sum_{k = 1}^n\{ a_1+(k-1)d+a_1+(n-k)d\} \\
&= \sum_{k = 1}^n\{ 2a_1+(n-1)d\} \\
&= n\{ 2a_1+(n-1)d\} \\
&= n(a_1+a_n)
\end{aligned}\]
の両辺を $2$ で割ると, 求める等式が得られる.
問題《多角数の一般項》
$p$ を $3$ 以上の整数とする.
- (1)
- 初項 $1,$ 公差 $p-2$ の等差数列の一般項を求めよ.
- (2)
- (1) の数列の初項から第 $n$ 項までの和を求めよ.
- (3)
- (2) の数列の第 $n$ 項を $f(p,n)$ とおく. $n$ の値を固定すると, $p$ を変数とする数列 $\{ f(p,n)\}$ は等差数列になることを示し, その公差を求めよ.
解答例
- (1)
- 求める一般項は, \[ 1+(n-1)(p-2) = (p-2)n-(p-3)\] である.
- (2)
- (1) の数列の初項から第 $n$ 項までの和は, \[\begin{aligned} &\sum_{k = 1}^n\{ (p-2)k-(p-3)\} = (p-2)\cdot\frac{n(n+1)}{2}-(p-3)n \\ &= \frac{n}{2}\{ (p-2)(n+1)-2(p-3)\} = \frac{n}{2}\{ (p-2)n-(p-4)\} \\ &= \frac{(p-2)n^2-(p-4)n}{2} \end{aligned}\] である.
- (3)
- $n$ の値を固定すると, \[\begin{aligned} &f(p+1,n)-f(p,n) \\ &= \frac{(p-1)n^2-(p-3)n}{2}-\frac{(p-2)n^2-(p-4)n}{2} \\ &= \frac{n^2-n}{2} = \frac{(n-1)n}{2} \end{aligned}\] は $p$ の値によらない定数になるから, $p$ を変数とする数列 $\{ f(p,n)\}$ は公差 $\dfrac{(n-1)n}{2}$ の等差数列になる.
参考
$3$ 以上の整数 $p$ に対して, $1$ を初項とする公差 $p-2$ の等差数列において, 初項からある項までの和を「$p$ 角数」と呼ぶ.
すべての正の整数は高々 $p$ 個の「$p$ 角数」の和として表されることが,「多角数定理」(polygonal number theorem) として知られている (こちらを参照).
問題《フォンタナの三角形》
$n$ を正の整数とする.
$n^2$ 以上 $n^2+2n$ 以下の $2n+1$ 個の正の整数について, 等式
\[ n^2+\cdots +(n^2+n) = (n^2+n+1)+\cdots +(n^2+2n)\]
が成り立つことを示せ.
解答例
等差数列の和の公式により
\[\begin{aligned}
&n^2+\cdots +(n^2+n) = \frac{n+1}{2}\{ n^2+(n^2+n)\} \\
&= \frac{n+1}{2}(2n^2+n) = \frac{n(n+1)(2n+1)}{2}, \\
&(n^2+n+1)+\cdots +(n^2+2n) \\
&= \frac{n}{2}\{ (n^2+n+1)+(n^2+2n)\} \\
&= \frac{n}{2}(2n^2+3n+1) = \frac{n(n+1)(2n+1)}{2}
\end{aligned}\]
であるから,
\[ n^2+\cdots +(n^2+n) = (n^2+n+1)+\cdots +(n^2+2n)\]
が成り立つ.
別解
左辺の第 $1$ 項 $n^2$ を $n$ 個の $n$ の和に分けて残りの項に含めると,
\[\begin{aligned}
&n^2+(n^2+1)+\cdots +(n^2+n) \\
&= \overbrace{n+\cdots +n}^n+(n^2+1)+\cdots +(n^2+n) \\
&= \{ (n^2+1)+n\} +\cdots +\{ (n^2+n)+n\} \\
&= (n^2+n+1)+\cdots +(n^2+2n) \\
\end{aligned}\]
が得られる.
参考
- 本問の等式を $n$ が小さい順に並べてできる三角形 \[\begin{aligned} 1+2 &= 3, \\ 4+5+6 &= 7+8, \\ 9+10+11+12 &= 13+14+15, \\ 16+17+18+19+20 &= 21+22+23+24, \\ 25+26+27+28+29+30 &= 31+32+33+34+35, \\ &\ \ \vdots \end{aligned}\] を「フォンタナの三角形」(俗称「タルタリアの三角形」) と呼ぶ.
- 平方数の和については, すべての正の整数 $n$ に対して \[\begin{aligned} \sum_{k = 0}^n(2n^2+n+k)^2 &= \sum_{k = n+1}^{2n}(2n^2+n+k)^2 \\ &= \frac{n(n+1)(2n+1)(12n^2+12n+1)}{6} \end{aligned}\] が成り立つ.
問題《既約分数の個数と和》
$p$ を素数, $m,$ $n$ を $0 \leqq m < n$ なる整数とする.
- (A)
- $m$ より大きく $n$ より小さい,$p$ を分母とする既約分数の個数を求めよ.
- (B)
- $m$ より大きく $n$ より小さい,$p$ を分母とする既約分数の総和を求めよ.
解答例
非負整数 $k$ に対して, $k$ より大きく $k+1$ より小さい, $p$ を分母とする既約分数は
\[ \frac{kp+1}{p},\cdots,\frac{kp+(p-1)}{p}\]
の $p-1$ 個, その総和は
\[\frac{p-1}{2}\left\{\frac{kp+1}{p}+\frac{kp+(p-1)}{p}\right\} = \frac{(p-1)(2k+1)}{2}\]
である.
- (A)
- $m$ より大きく $n$ より小さい,$p$ を分母とする既約分数の個数は, $(p-1)(n-m+1)$ 個である.
- (B)
- $m$ より大きく $n$ より小さい,$p$ を分母とする既約分数の総和は, \[\begin{aligned} &\sum_{k = m}^{n-1}\frac{(p-1)(2k+1)}{2} = \sum_{k = m}^{n-1}\left\{ (p-1)k+\frac{p-1}{2}\right\} \\ &= (p-1)\frac{(n-m)(n+m-1)}{2}+\frac{p-1}{2}(n-m) \\ &= \frac{(p-1)(n+m)(n-m)}{2} = \frac{(p-1)(n^2-m^2)}{2} \end{aligned}\] である.