有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

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期待値

期待値

問題《バナッハのマッチ箱》

 $2$ つのマッチ箱に $n$ 本ずつマッチ棒が入っている. 無作為にいずれかのマッチ箱を取り出して中のマッチ棒を $1$ 本だけ使うという操作を繰り返す. 取り出したマッチ箱が空になっていることに初めて気づいたとき, 残っているマッチ棒の本数を $X$ とおく. また, $0 \leqq k \leqq n$ なる各整数 $k$ に対して $X = k$ となる確率を $p_k$ とおき, $p_{n+1} = 0$ と定める.
(1)
$0 \leqq k \leqq n$ のとき, $p_k$ を求めよ.
(2)
$0 \leqq k \leqq n$ のとき, $\dfrac{p_{k+1}}{p_k}$ を求めよ.
(3)
$X$ の期待値 $E(X)$ を求めよ.

解答例

(1)
一方のマッチ箱から $2n-k$ 回の操作で $n$ 本のマッチ棒を使い(確率は ${}_{2n-k}\mathrm C_n\left(\dfrac{1}{2}\right) ^n\left(\dfrac{1}{2}\right) ^{n-k}$), 最後にそのマッチ箱を取り出す(確率は $\dfrac{1}{2}$)と, 操作は終了して, 残りが $k$ 本となる. このマッチ箱の選び方は $2$ 通りあるから, \[ p_k = 2\cdot {}_{2n-k}\mathrm C_n\left(\frac{1}{2}\right) ^n\left(\frac{1}{2}\right) ^{n-k}\cdot\frac{1}{2} = \frac{{}_{2n-k}\mathrm C_n}{2^{2n-k}}\] である.
(2)
$0 \leqq k \leqq n-1$ のとき \[\begin{aligned} \frac{p_{k+1}}{p_k} &= \frac{{}_{2n-k-1}\mathrm C_n}{2^{2n-k-1}}\cdot\frac{2^{2n-k}}{{}_{2n-k}\mathrm C_n} = \frac{{}_{2n-k-1}\mathrm C_n}{{}_{2n-k}\mathrm C_n}\cdot\frac{2^{2n-k}}{2^{2n-k-1}} \\ &= \frac{(2n-k-1)!}{n!(n-k-1)!}\cdot\frac{n!(n-k)!}{(2n-k)!}\cdot 2 = \frac{2(n-k)}{2n-k} \end{aligned}\] である. これは $k = n$ のときも成り立つから, $0 \leqq k \leqq n$ のとき \[\frac{p_{k+1}}{p_k} = \frac{2(n-k)}{2n-k} \quad \cdots [1]\] である.
(3)
$[1]$ から, $0 \leqq k \leqq n$ のとき, \[ (2n-k)p_{k+1} = 2(n-k)p_k \quad \cdots [1]\] が成り立つ. 辺々を加えると \[\begin{aligned} \sum_{k = 0}^n(2n-k)p_{k+1} &= \sum_{k = 0}^n2(n-k)p_k \\ \sum_{k = 0}^n\{ (2n+1)-(k+1)\} p_{k+1} &= \sum_{k = 0}^n2(n-k)p_k \\ (2n\!+\!1)\sum_{k = 0}^np_{k+1}\!-\!\sum_{k = 0}^n(k\!+\!1)p_{k+1} &= 2n\sum_{k = 0}^np_k\!-\!2\sum_{k = 0}^nkp_k \\ (2n+1)(1-p_0)-E(X) &= 2n-2E(X) \end{aligned}\] $\left(\because\sum_{k = 0}^np_k = 1,\ p_{n+1} = 0,\ 0\cdot p_0 = 0\right)$ となるから, \[\begin{aligned} E(X) &= 2n-(2n+1)(1-p_0) \\ &= 2n-(2n+1)+(2n+1)p_0 \\ &= \frac{(2n+1){}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}}-1 \quad \left(\because p_0 = \dfrac{{}_{2n}\mathrm C_n}{2^{2n}}\right) \end{aligned}\] である.

背景

 本問は「バナッハのマッチ箱の問題」(Banach's matchbox problem)として知られている.

期待値の線形性

定理《期待値の線形性》

 確率変数 $X,$ $Y,$ 実数 $c$ に対して, \[\begin{aligned} E(cX) &= cE(X), \\ E(X+Y) &= E(X)+E(Y) \end{aligned}\] が成り立つ.

証明

 $X,$ $Y$ が離散型確率変数の場合に示す. $X$ のとり得る値を $x_1,$ $\cdots,$ $x_m,$ $Y$ のとり得る値を $y_1,$ $\cdots,$ $y_n$ とすると, 期待値の定義により \[\begin{aligned} E(cX) &= \sum_{k = 1}^mcx_kP(X = x_k) \\ &= c\sum_{k = 1}^mx_kP(X = x_k) \\ &= cE(X), \\ E(X+Y) &= \sum_{k = 1}^m\sum_{l = 1}^n(x_k+y_l)P(X = x_k,Y = y_l) \\ &= \sum_{k = 1}^m\sum_{l = 1}^nx_kP(X = x_k,Y = y_l) \\ &\quad +\sum_{k = 1}^m\sum_{l = 1}^ny_lP(X = x_k,Y = y_l) \\ &= \sum_{k = 1}^mx_k\sum_{l = 1}^nP(X = x_k,Y = y_l) \\ &\quad +\sum_{l = 1}^ny_l\sum_{k = 1}^mP(X = x_k,Y = y_l) \\ &= \sum_{k = 1}^mx_kP(X = x_k)+\sum_{l = 1}^ny_lP(Y = y_l) \\ &= E(X)+E(Y) \end{aligned}\] が得られる.

問題《夫婦円卓問題》

 $n$ を $2$ 以上の整数とする. $n$ 組の夫婦 $2n$ 人が, 男女交互に, それ以外は無作為に円卓の周りに座る. このとき, 隣どうしに座る夫婦の総数を $X$ とおく. また, 席に $1$ から $2n$ までの番号をつけて, 各番号 $k$ $(1 \leqq k \leqq 2n)$ に対して, 番号 $k$ の席に座る人とその右隣に座る人が夫婦であるとき $X_k = 1,$ そうでないとき $X_k = 0$ と定める.
(1)
$X_k$ の期待値 $E(X_k)$ $(1 \leqq k \leqq 2n)$ を求めよ.
(2)
$X$ の期待値 $E(X)$ を求めよ.

解答例

(1)
番号 $k$ の席に座る人とその右隣に座る人が夫婦である確率は $\dfrac{1}{n},$ そうでない確率は $\dfrac{n-1}{n}$ であるから, \[ E(X_k) = 0\cdot\frac{n-1}{n}+1\cdot\frac{1}{n} = \frac{1}{n}\] である.
(2)
$n \geqq 2$ に注意すると, 隣どうしに座る夫婦の総数 $X$ は右隣に伴侶が座る人の総数に等しいから, \[ X = X_1+\cdots +X_{2n}\] が成り立つ. よって, \[\begin{aligned} E(X) &= E(X_1+\cdots +X_{2n}) = E(X_1)+\cdots +E(X_{2n}) \\ &= 2n\cdot\frac{1}{n} = 2 \end{aligned}\] である.

背景

 本問の類の問題は, しばしば「夫婦円卓問題」と呼ばれる. 特に, E・リュカにより提起された「$n$ 組の夫婦 $2n$ 人が, 男女交互に, どの夫婦も隣どうしにならないように, 円卓の周りに座る方法は何通りあるか」という ménage problem が有名である.