条件付き確率
条件付き確率
定理《条件付き確率》
事象 $A$ が起こったときの事象 $B$ が起こる条件付き確率 $P_A(B)$ は,
\[ P_A(B) = \frac{P(A\cap B)}{P(A)}\]
である.
証明
全事象 $U$ をもとにした確率に置き換えて考えると,
\[ P_A(B) = \frac{n(A\cap B)}{n(A)} = \frac{\dfrac{n(A\cap B)}{n(U)}}{\dfrac{n(A)}{n(U)}}= \frac{P(A\cap B)}{P(A)}\]
が得られる.
確率の乗法定理
定理《確率の乗法定理》
事象 $A$ が起こったときの事象 $B$ が起こる条件付き確率を $P_A(B)$ とおくと, $A,$ $B$ がともに起こる確率は
\[ P(A\cap B) = P(A)P_A(B)\]
である.
問題《くじ引きの公平性》
$r$ 本だけ当たりを含む $n$ 本のくじにおいて $k$ 番目にくじを引くとき $(r,\ k \leqq n),$
当たりを引く確率 $p_k$ が $\dfrac{r}{n}$ であることを, 次の $2$ つの方法で示せ.
ただし, $1$ 度引いたくじはもとに戻さないものとする.
- (A)
- $k$ 番目までにくじを引く場合の数に着目して, $p_k$ を求める.
- (B)
- $k$ 番目 $(k < n)$ にくじを引くときに当たりが $a$ 本残っているとする. このとき, $k+1$ 番目に当たりを引く確率 $p_{k+1}$ が $p_k$ に等しいことを示す.
解答例
- (A)
- $k$ 番目までにくじを引く場合の数は, ${}_n\mathrm P_k$ 通りである. $k$ 番目に当たりを引くとき, $k$ 番目のくじの引き方が $r$ 通りあり, $1$ 番目から $k-1$ 番目までのくじの引き方が ${}_{n-1}\mathrm P_{k-1}$ 通りあるから, $k$ 番目に当たりを引く場合の数は $r{}_{n-1}\mathrm P_{k-1}$ 通りである. ゆえに, $k$ 番目に当たりを引く確率は, \[\frac{r{}_{n-1}\mathrm P_{k-1}}{{}_n\mathrm P_k} = \frac{r(n-1)(n-2)\cdots (n-k+1)}{n(n-1)(n-2)\cdots (n-k+1)} = \frac{r}{n}\] である.
- (B)
- $k$ 番目にくじを引くとき, $n-k+1$ 本だけくじが残っているから, 当たりを引く確率は
\[ p_k = \dfrac{a}{n-k+1} \quad \cdots [1]\]
である.
また, $k+1$ 番目で当たりを引くのは,
- (i)
- $k$ 番目で当たりを引き, $a-1$ 本だけ当たりを含む残り $n-k$ 本から当たり $a-1$ 本の $1$ つを引く
- (ii)
- $k$ 番目ではずれを引き, $a$ 本だけ当たりを含む残り $n-k$ 本から当たり $a$ 本の $1$ つを引く
参考
くじ引きの公平性については, こちらの証明も参照されたい.
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問題《$n$ 回のじゃんけんで順位がつく確率》
$3$ 人がじゃんけんをして, ちょうど $n$ 回目で $1$ 位から $3$ 位までの順位が決まる確率 $p_n$ を求めよ.
ただし, $3$ 人の手の出し方は, どれも同様に確からしいとする.
解答例
$n \geqq 2$ のとき, ちょうど $n$ 回目で $1$ 位から $3$ 位までの順位が決まるのは,
$1 \leqq k \leqq n-1$ なるある整数 $k$ に対して, 次の条件が成り立つ場合である.
- $1$ 回目から $k-1$ 回目まで $3$ 人があいこである.
- $k$ 回目に $3$ 人があいこにならない.
- $k+1$ 回目から $n-1$ 回目まで残った $2$ 人があいこである.
- $n$ 回目に残った $2$ 人があいこにならない.
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問題《ポリアの壺》
最初, 壺の中に白玉が $a$ 個, 黒玉が $b$ 個だけ入っている.
壺の中から無作為に玉を $1$ 個取り出して, その玉と同じ色の玉を $c$ 個だけ壺の中に入れ, 取り出した玉も戻すという試行を繰り返す.
$n$ 回目に白玉を取り出す確率を $p_n$ とおく.
- (1)
- $p_2$ を求めよ.
- (2)
- $p_n$ を求めよ.
(参考: $2000$ 千葉大)
解答例
- (1)
- $p_1 = \dfrac{a}{a+b}\ \cdots [1]$ であるから, \[\begin{aligned} p_2 &= p_1\cdot\frac{a+c}{a+b+c}+(1-p_1)\cdot\frac{a}{a+b+c} \\ &= \frac{a}{a+b}\cdot\frac{a+c}{a+b+c}+\frac{b}{a+b}\cdot\frac{a}{a+b+c} \\ &= \frac{a(a+b+c)}{(a+b)(a+b+c)} = \frac{a}{a+b} \quad \cdots[2] \end{aligned}\] である.
- (2)
- $[1],$ $[2]$ から,
\[ p_n = \frac{a}{a+b} \quad \cdots [*]\]
であると推測できる.
これを数学的帰納法で示す.
- (i)
- $n = 1$ のとき. $[1]$ から, $[*]$ が成り立つ.
- (ii)
- $n = k$ ($k$: 正の整数) のとき $[*]$ が成り立つとする. また, $k$ 回目の試行を行う直前の壺の中にある白玉の個数を $x,$ 黒玉の個数を $y$ とおく. $k$ 回目に取り出す玉の色で場合に分けて考えると, \[\begin{aligned} p_{k+1} &= p_k\cdot\frac{x+c}{x+y+c}+(1-p_k)\cdot\frac{x}{x+y+c} \\ &= \frac{x}{x+y}\cdot\frac{x+c}{x+y+c}+\frac{y}{x+y}\cdot\frac{x}{x+y+c} \\ &= \frac{x(x+y+c)}{(x+y)(x+y+c)} = \frac{x}{x+y} \\ &= p_k = \frac{a}{a+b} \end{aligned}\] が得られる. よって, $n = k+1$ のとき $[*]$ が成り立つ.
参考
- 確率変数が時間的に変化するような確率のモデルは「確率過程」(stochastic process) と呼ばれる.
- 本問は「ポリアの壺問題」(Polya's urn problem) として有名である.
- 玉の色の種類が増えても, 同様の定理が成り立つ. つまり, 取り出した玉と同じ色の玉を一定の個数だけ壺の中に入れ, 取り出した玉も戻すという試行を繰り返すとき, 各回の試行で各色の玉を取り出す確率は初めの玉の個数の割合に等しい (証明は同様, こちらを参照).
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問題《くじ引きの条件付き確率》
$r$ 本だけ当たりを含む $n$ 本のくじから, A, B の $2$ 人がこの順番に $1$ 本ずつくじを引く.
A が当たりを引くという事象を $A,$ B が当たりを引くという事象を $B$ とおく.
引いたくじはもとに戻さないとして, 次のことを示せ.
- (1)
- $P(A) = P(B)$ が成り立つ.
- (2)
- $P_A(B) = P_B(A)$ が成り立つ.
解答例
- (1)
- B が当たりを引くのは,
- (i)
- A が当たりを引き, $r-1$ 本だけ当たりを含む残り $n-1$ 本から当たりを引く
- (ii)
- A がはずれを引き, $r$ 本だけ当たりを含む残り $n-1$ 本から当たりを引く
- (2)
- 確率の乗法定理と (1) の結果から, \[\begin{aligned} P_B(A) &= \frac{P(B\cap A)}{P(B)} = \frac{P(A\cap B)}{P(B)} \\ &= \frac{P(A)P_A(B)}{P(A)} = P_A(B) \end{aligned}\] が成り立つ.
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問題《モンティ・ホール問題》
$3$ つのドア A, B, C のうち, いずれかのドアの向こうに賞品が無作為に隠されている.
挑戦者はドアを $1$ つだけ開けて, 賞品があれば, それをもらうことができる.
挑戦者がドアを選んでからドアを開けるまでの間に, 司会者は残った $2$ つのドアのうち, はずれのドアを $1$ つ無作為に開ける.
このとき, 挑戦者は開けるドアを変更することができる.
- (1)
- 挑戦者が A を選んだとき, 司会者が C を開ける確率を求めよ.
- (2)
- ドアを変更するとき, しないときのどちらが賞品を得る確率が高いか.
解答例
ドア A, B, C の向こうに賞品がある事象をそれぞれ $A,$ $B,$ $C$ とおく.
賞品は無作為に隠されているから,
\[ P(A) = P(B) = P(C) = \frac{1}{3}\]
である.
挑戦者が A を選んだとき, 司会者が C を開けるという事象を $E$ とおく.
- (1)
- A が当たりのとき司会者は C の他に B も開けることができるから, $P_A(E) = \dfrac{1}{2}$ であり, \[ P(A\cap E) = P(A)P_A(E) = \frac{1}{3}\cdot\dfrac{1}{2} = \frac{1}{6} \quad \cdots [1]\] である.
- B が当たりのとき司会者は C を開けるしかないから, $P_B(E) = 1$ であり, \[ P(B\cap E) = P(B)P_B(E) = \frac{1}{3}\cdot 1 = \frac{1}{3} \quad \cdots [2]\] である.
- C が当たりのとき司会者は C を開けることはないから, $P_C(E) = 0$ であり, \[ P(C\cap E) = P(C)P_C(E) = \frac{1}{3}\cdot 0 = 0\] である.
- (2)
- 司会者が C を開けたとき A が当たりである条件付き確率は, $[1]$ から, \[ P_E(A) = \frac{P(A\cap E)}{P(E)} = \frac{1}{6}\div\frac{1}{2} = \frac{1}{3}\] である.
- 司会者が C を開けたとき B が当たりである条件付き確率は, $[2]$ から, \[ P_E(B) = \frac{P(B\cap E)}{P(E)} = \frac{1}{3}\div\frac{1}{2} = \frac{2}{3}\] である.
参考
- 本問は, アメリカのテレビ番組“Let's make a deal”の中で行われたゲームに由来をもち, その司会者の名に因んで「モンティ・ホール問題」(Monty Hall problem) と呼ばれる.
- (1) について, 一般に, 全事象が互いに排反な事象 $A_1,$ $\cdots,$ $A_n$ に分けられるとき,「全確率の定理」(theorem of total probability) \[\begin{aligned} P(E) &= P(A_1\cap E)+\cdots +P(A_n\cap E) \\ &= P(A_1)P_{A_1}(E)+\cdots +P(A_n)P_{A_n}(E) \end{aligned}\] が成り立つ.
- (2) の $P_E(A)$ は, $E$ という結果の起こった原因が $A$ である確率を表している. このような条件付き確率を「原因の確率」(probability of cause) と呼ぶ.
- (2) では, (1) で求めた $P(A\cap E) = P(A)P_A(E)$ の値を使って, 条件付き確率 $P_E(A) = \dfrac{P(A\cap E)}{P(E)}$ を求めた. つまり, \[ P_E(A) = \dfrac{P(A)P_A(E)}{P(E)}\] が成り立つ. これは, 「ベイズの定理」(Bayes' theorem) として知られている.
- 「モンティ・ホール問題」によく似た「$3$ 囚人の問題」「ベルトランの箱の問題」も有名である.