多項式の除法・分数式
多項式の除法
定理《多項式に関する除法の定理》
すべての多項式 $f(x),$ $g(x)\,(\neq 0)$ に対して,
\[\begin{aligned}
&f(x) = g(x)q(x)+r(x) \quad \cdots [1], \\
&r(x) \neq 0 \Longrightarrow \deg r(x) < g(x) \quad \cdots [2]
\end{aligned}\]
なる多項式 $q(x),$ $r(x)$ がただ $1$ 組存在する.
証明
まず, 存在を示す.
仮に $q_0(x)-q(x) \neq 0$ とすると, $[1]''$ から, $r(x)-r_0(x) \neq 0$ で, \[\begin{aligned} \deg (r(x)-r_0(x)) &= \deg g(x)\{ q_0(x)-q(x)\} \\ &= \deg g(x)+\deg (q_0(x)-q(x)) \\ &\geqq \deg g(x) \end{aligned}\] となり, 上記の注意に反する.
よって, $q_0(x)-q(x) = 0$ つまり $q(x) = q_0(x)$ が成り立つ.
これと $[1]''$ から, $r(x)-r_0(x) = 0$ つまり $r(x) = r_0(x)$ が成り立つ.
- (i)
- $f(x) = 0$ のとき. $q(x) = r(x) = 0$ に対して $[1],$ $[2]$ が成り立つ.
- (ii)
- $f(x) \neq 0,$ $\deg f(x) < \deg g(x)$ のとき. $q(x) = 0,$ $r(x) = f(x)$ に対して $[1],$ $[2]$ が成り立つ.
- (iii)
- $f(x) \neq 0,$ $\deg f(x) \geqq \deg g(x)$ のとき.
$g(x) = bx^m+\cdots$ $(b \neq 0)$ とする.
多項式の列 $f_k(x) = a_kx^{n_k}+\cdots$ $(a_k \neq 0,\ k \geqq 1)$ を $f_1(x) = f(x)$ と漸化式 \[ f_{k+1}(x) = f_k(x)-\frac{a_k}{b}x^{n_k-m}g(x)\] で定める. $f_{k+1}(x) \neq 0$ のとき $\deg f_{k+1}(x) < \deg f_k(x)$ であるから, ある番号 $l\,(\geqq 2)$ について \[ f_l(x) \neq 0 \Longrightarrow \deg f_l(x) < \deg g(x)\] となる. このとき, \[\begin{aligned} f_l(x) &= f_1(x)+\sum\limits _{k = 1}^{l-1}\{ f_{k+1}(x)-f_k(x)\} \\ &= f(x)+\sum\limits _{k = 1}^{l-1}\left\{ -\frac{a_k}{b}x^{n_k-m}g(x)\right\} \\ &= f(x)-g(x)\sum\limits _{k = 1}^{l-1}\frac{a_k}{b}x^{n_k-m}, \\ f(x) &= g(x)\sum\limits _{k = 1}^{l-1}\frac{a_k}{b}x^{n_k-m}+f_l(x) \end{aligned}\] である. よって, $q(x) = \displaystyle\sum\limits _{k = 1}^{l-1}\dfrac{a_k}{b}x^{n_k-m},$ $r(x) = f_l(x)$ に対して $[1],$ $[2]$ が成り立つ.
仮に $q_0(x)-q(x) \neq 0$ とすると, $[1]''$ から, $r(x)-r_0(x) \neq 0$ で, \[\begin{aligned} \deg (r(x)-r_0(x)) &= \deg g(x)\{ q_0(x)-q(x)\} \\ &= \deg g(x)+\deg (q_0(x)-q(x)) \\ &\geqq \deg g(x) \end{aligned}\] となり, 上記の注意に反する.
よって, $q_0(x)-q(x) = 0$ つまり $q(x) = q_0(x)$ が成り立つ.
これと $[1]''$ から, $r(x)-r_0(x) = 0$ つまり $r(x) = r_0(x)$ が成り立つ.
この証明は, $q(x),$ $r(x)$ を求めるアルゴリズムを与えている.
定義《商, 余り》
多項式 $f(x),$ $g(x)\,(\neq 0)$ に対して,
\[\begin{aligned}
&f(x) = g(x)q(x)+r(x), \\
&r(x) \neq 0 \Longrightarrow \deg r(x) < g(x)
\end{aligned}\]
なる多項式 $q(x),$ $r(x)$ を, それぞれ $f(x)$ を $g(x)$ で割った商 (quotient), 余り (remainder) と呼ぶ.
問題《整数値多項式に関するポリアの定理》
各正の整数 $k$ に対して,
\[ e_k(x) = \frac{1}{k!}x(x-1)\cdots (x-k+1)\]
と定める.
次のことを示せ.
- (1)
- すべての実数係数の $d$ 次多項式 $f(x)$ は必ず
の形に表される.
$f(x) = c_de_d(x)+\cdots +c_1e_1(x)+c_0$ ($c_k$: 実数) - (2)
- すべての整数 $n$ に対して $e_k(n)$ は整数である.
- (3)
- すべての整数 $n$ に対して $f(n)$ が整数になるような実数係数の $d$ 次多項式 $f(x)$ を (1) のように表す. このとき, $c_k$ は整数になる.
解答例
- (1)
- $f(x)$ を $x$ で割った商を $q_1(x),$ 余りを $c_0$ とおき, $1 \leqq k < d$ なる各整数 $k$ に対して $q_k(x)$ を $\dfrac{1}{k+1}(x-k)$ で割った商を $q_{k+1}(x),$ 余りを $c_k$ とおく. このとき, $q_d(x)$ は定数になるから, その値を $c_d$ とおくと, \[\begin{aligned} &f(x) = xq_1(x)+c_0 \\ &= e_1(x)q_1(x)+c_0 \\ &= \cdots \\ &= e_k(x)q_k(x)+c_{k-1}e_{k-1}(x)+\cdots +c_1e_1(x)+c_0 \\ &= e_k(x)\left\{\frac{1}{k+1}(x-k)q_{k+1}(x)+c_k\right\} \\ &\qquad\qquad\qquad +c_{k-1}e_{k-1}(x)+\cdots +c_1e_1(x)+c_0 \\ &= e_{k+1}(x)q_{k+1}(x)+c_ke_k(x)+\cdots +c_1e_1(x)+c_0 \\ &= \cdots \\ &= e_d(x)q_d(x)+\cdots +c_1e_1(x)+c_0 \\ &= c_de_d(x)+\cdots +c_1e_1(x)+c_0 \quad \cdots [1] \end{aligned}\] となる.
- (2)
- 整数 $n$ に対して, 連続する $k$ 個の整数の積 $n(n-1)\cdots (n-k+1)$ は $k!$ の倍数であるから, \[ e_k(n) = \frac{1}{k!}n(n-1)\cdots (n-k+1)\] は整数である.
- (3)
- 仮定から, $f(0) = c_0,$ $f(1),$ $\cdots,$ $f(d)$ は整数である. また, $1 \leqq k \leqq d$ なる整数 $k$ に対して $[1]$ に $x = k$ を代入したときの $c_d,$ $\cdots,$ $c_{k+1}$ の係数は $0$ であり, $c_k$ の係数は \[ e_k(k) = \frac{1}{k!}k(k-1)\cdots 1 = 1\] であるから, 数学的帰納法により $c_k$ が整数であることが示される.
参考
- どのような整数を代入しても整数の値をとる多項式を「整数値多項式」と呼ぶ.
- 「整数値多項式」の特徴付けについては, こちらを参照されたい.
問題《奇数番目のフィボナッチ数からなる数列の漸化式》
$\varphi$ を $x^2-x-1 = 0$ の正の実数解とし, $F_n$ $(n \geqq 1)$ を
\[ F_n = \frac{\varphi ^n-\varphi ^{-n}}{\sqrt 5}\]
で定める.
- (1)
- $\varphi ^2,$ $\varphi ^4$ を $\varphi$ の $1$ 次式で表せ.
- (2)
- $F_{2n+3} = 3F_{2n+1}-F_{2n-1}$ が成り立つことを示せ.
解答例
- (1)
- $\varphi ^2-\varphi -1 = 0$ であるから, $\varphi ^2,$ $\varphi ^4$ は \[\begin{aligned} \varphi ^2 &= \varphi +1, \\ \varphi ^4 &= (\varphi ^2)^2 = (\varphi +1)^2 = \varphi ^2+2\varphi +1 \\ &= (\varphi +1)+2\varphi +1 = 3\varphi +2 \end{aligned}\] と表せる.
- (2)
- \[\begin{aligned} &\sqrt 5(F_{2n+3}-3F_{2n+1}+F_{2n-1}) \\ &= (\varphi ^{2n+3}\!-\!\varphi ^{-2n-3})-3(\varphi ^{2n+1}\!-\!\varphi ^{-2n-1})+(\varphi ^{2n-1}\!-\!\varphi ^{-2n+1}) \\ &= (\varphi ^{2n-1}-\varphi ^{-2n-3})(\varphi ^4-3\varphi ^2+1) \\ &= (\varphi ^{2n-1}-\varphi ^{-2n-3})\{ (3\varphi +2)-3(\varphi +1)+1\} = 0 \end{aligned}\] であるから, \[ F_{2n+3} = 3F_{2n+1}-F_{2n-1}\] が成り立つ.
参考
- 初期条件 $F_1 = F_2 = 1$ と漸化式 $F_{n+2} = F_n+F_{n+1}$ で定まる数列 $\{ F_n\}$ は「フィボナッチ数列」(Fibonacci sequence) と呼ばれ, その一般項は「ビネの公式」(Binet's formula) と呼ばれる公式 \[ F_n = \frac{\varphi ^n-\varphi ^{-n}}{\sqrt 5} \quad \left(\varphi = \frac{1+\sqrt 5}{2}\right)\] で与えられる (こちらを参照). 上記の漸化式は \[\begin{aligned} F_{2n+3} &= F_{2n+2}+F_{2n+1} = (F_{2n+1}+F_{2n})+F_{2n+1} \\ &= 2F_{2n+1}+F_{2n} = 2F_{2n+1}+(F_{2n+1}-F_{2n-1}) \\ &= 3F_{2n+1}-F_{2n-1} \end{aligned}\] と示すこともできる.
- 初期条件 $P_1 = 1,$ $P_2 = 2$ と漸化式 $P_{n+2} = 2P_{n+1}+P_n$ で定まる「ペル数列」(Pell sequence) $\{ P_n\}$ についても, 同様の漸化式 $P_{2n+3} = 6P_{2n+1}-P_{2n-1}$ が成り立つ. これは, 上記と同様の公式 \[ P_n = \frac{\tau ^n-(-\tau )^{-n}}{2\sqrt 2} \quad (\tau = 1+\sqrt 2)\] および \[\begin{aligned} \tau ^2 &= 2\tau +1, \\ \tau ^4 &= (\tau ^2)^2 = (2\tau +1)^2 = 4\tau ^2+4\tau +1 \\ &= 4(2\tau +1)+4\tau +1 = 12\tau +5 \end{aligned}\] により, \[\begin{aligned} &2\sqrt 2(P_{2n+3}-6P_{2n+1}+P_{2n-1}) \\ &= (\tau ^{2n+3}+\tau ^{-2n-3})-6(\tau ^{2n+1}+\tau ^{-2n-1})+(\tau ^{2n-1}+\tau ^{-2n+1}) \\ &= (\tau ^{2n-1}+\tau ^{-2n-3})(\tau ^4-6\tau ^2+1) \\ &= (\tau ^{2n-1}+\tau ^{-2n-3})\{ (12\tau +5)-6(2\tau +1)+1\} = 0 \end{aligned}\] と示せる. また, \[\begin{aligned} P_{2n+3} &= 2P_{2n+2}+P_{2n+1} = 2(2P_{2n+1}+P_{2n})+P_{2n+1} \\ &= 5P_{2n+1}+2P_{2n} = 5P_{2n+1}+(P_{2n+1}-P_{2n-1}) \\ &= 6P_{2n+1}-P_{2n-1} \end{aligned}\] と示すこともできる.
- 漸化式 $F_{2n+3} = 3F_{2n+1}-F_{2n-1},$ $P_{2n+3} = 6P_{2n+1}-P_{2n-1}$ を使うと, \[ (1,F_{2n-1},F_{2n+1}), \quad (2,P_{2n-1},P_{2n+1}) \quad (n \geqq 1)\] が「マルコフの $3$ つ組」, つまり $x^2+y^2+z^2 = 3xyz$ の正の整数解であることが示せる (こちらを参照).
分数式
問題《分数式に関するオイラーの公式》
$a,$ $b,$ $c$ を相異なる実数とする.
- (A)
- $\dfrac{1}{(a-b)(a-c)}+\dfrac{1}{(b-a)(b-c)}+\dfrac{1}{(c-a)(c-b)} = 0$
- (B)
- $\dfrac{a}{(a-b)(a-c)}+\dfrac{b}{(b-a)(b-c)}+\dfrac{c}{(c-a)(c-b)} = 0$
- (C)
- $\dfrac{a^2}{(a-b)(a-c)}+\dfrac{b^2}{(b-a)(b-c)}+\dfrac{c^2}{(c-a)(c-b)} = 1$
解答例
- (A)
- 左辺を通分して整理すると, \[\begin{aligned} &\frac{1}{(a-b)(a-c)}+\frac{1}{(b-a)(b-c)}+\frac{1}{(c-a)(c-b)} \\ &= \frac{-(b-c)-(c-a)-(a-b)}{(a-b)(b-c)(c-a)} \\ &= \frac{-b+c-c+a-a+b}{(a-b)(b-c)(c-a)} \\ &= 0 \end{aligned}\] が得られる.
- (B)
- 左辺を通分して整理すると, \[\begin{aligned} &\frac{a}{(a-b)(a-c)}+\frac{b}{(b-a)(b-c)}+\frac{c}{(c-a)(c-b)} \\ &= \frac{-a(b-c)-b(c-a)-c(a-b)}{(a-b)(b-c)(c-a)} \\ &= \frac{-ab+ca-bc+ab-ca+bc}{(a-b)(b-c)(c-a)} \\ &= 0 \end{aligned}\] が得られる.
- (C)
- 左辺を通分して整理すると, \[\begin{aligned} &\frac{a^2}{(a-b)(a-c)}+\frac{b^2}{(b-a)(b-c)}+\frac{c^2}{(c-a)(c-b)} \\ &= \frac{-a^2(b-c)-b^2(c-a)-c^2(a-b)}{(a-b)(b-c)(c-a)} \\ &= \frac{(a-b)(b-c)(c-a)}{(a-b)(b-c)(c-a)} \\ &= 1 \\ &\left(\because\begin{array}{l} -a^2(b-c)-b^2(c-a)-c^2(a-b) \\ = -a^2(b-c)-b^2c+ab^2-c^2a+bc^2 \\ = -a^2(b-c)+a(b^2-c^2)-bc(b-c) \\ = -(b-c)\{ a^2-(b+c)a+bc\} \\ = -(b-c)(a-b)(a-c) \\ = (a-b)(b-c)(c-a) \end{array}\right)\end{aligned}\] が得られる.
参考
一般に, $n \geqq 2$ のとき, 相異なる $n$ 個の複素数 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n,$ 整数 $m$ $(0 \leqq m \leqq n-1)$ に対して,
分数式に関する「オイラーの公式」(Euler's formula)
\[\sum_{k = 1}^n\frac{a_k{}^m}{\displaystyle\prod_{l \neq k}(a_k-a_l)} = \begin{cases}
0 & (0 \leqq m < n-1) \\
1 & (m = n-1)
\end{cases}\]
が成り立つ.
ここで, $\displaystyle\prod_{l \neq k}(a_k-a_l)$ は $k$ と異なる $1$ 以上 $n$ 以下のすべての整数 $l$ にわたる $a_k-a_l$ の積を意味する.
問題《絶対値が $1$ 未満の実数全体のなす群》
絶対値が $1$ 未満の実数全体を $G$ とおき, $a,$ $b \in G$ のとき
\[ a\ast b = \frac{a+b}{1+ab}\]
と定める.
次のことを示せ.
- (1)
- $a,$ $b \in G$ ならば, $a\ast b \in G$ である.
- (2)
- $a,$ $b,$ $c \in G$ ならば, \[ (a\ast b)\ast c = a\ast (b\ast c)\] が成り立つ.
解答例
- (1)
- $a,$ $b \in G$ とする. このとき, $|a| < 1,$ $|b| < 1$ つまり $a^2 < 1,$ $b^2 < 1$ から \[\begin{aligned} |1+ab|^2-|a+b|^2 &= (1+ab)^2-(a+b)^2 \\ &= (1+2ab+a^2b^2)-(a^2+2ab+b^2) \\ &= 1-a^2-b^2+a^2b^2 \\ &= (1-a^2)(1-b^2) > 0 \end{aligned}\] であるので, \[ |a+b|^2 < |1+ab|^2, \quad |a+b| < |1+ab|\] つまり \[ |a\ast b| = \left|\frac{a+b}{1+ab}\right| = \frac{|a+b|}{|1+ab|} < 1\] が成り立つ. よって, $a\ast b \in G$ である.
- (2)
- $a,$ $b,$ $c \in G$ のとき, \[\begin{aligned} (a\ast b)\ast c &= \frac{\dfrac{a+b}{1+ab}+c}{1+\dfrac{a+b}{1+ab}\cdot c} = \frac{(a+b)+c(1+ab)}{(1+ab)+(a+b)c} \\ &= \frac{a+b+c+abc}{1+ab+bc+ca} \\ a\ast (b\ast c) &= \frac{a+\dfrac{b+c}{1+bc}}{1+a\cdot\dfrac{b+c}{1+bc}} = \frac{a(1+bc)+(b+c)}{(1+bc)+a(b+c)} \\ &= \frac{a+b+c+abc}{1+ab+bc+ca} \end{aligned}\] であるから, \[ (a\ast b)\ast c = a\ast (b\ast c)\] が成り立つ.