有名問題・定理から学ぶ数学

Well-Known Problems and Theorems in Mathematics

数式を枠からはみ出さずに表示するためには, 画面を横に傾けてください.

不等式の証明

不等式の証明

 不等式 $A \geqq B$ を示すには, $A-B \geqq 0$ を示すことがしばしば有効である.

問題≪$2$~$4$ 変数の相加・相乗平均の不等式≫

(1)
$x,$ $y \geqq 0$ のとき, $x+y \geqq 2\sqrt{xy}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(2)
$x,$ $y,$ $z,$ $w \geqq 0$ のとき, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(3)
(2) において, $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすることにより, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ. また, 等号成立条件を求めよ.
(4)
$\triangle\mathrm{ABC}$ において $a = \mathrm{BC},$ $b = \mathrm{CA},$ $c = \mathrm{AB},$ $s = \dfrac{a+b+c}{2}$ とおくとき「ヘロンの公式」 \[\triangle\mathrm{ABC} = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\] (こちらを参照)が成り立つことを使って, 周の長さが一定である三角形のうち面積が最大であるものは正三角形であることを示せ.

解答例

(1)
\[ (x+y)-2\sqrt{\mathstrut xy} = (\sqrt{\mathstrut x}-\sqrt{\mathstrut y})^2 \geqq 0\] から, $x+y \geqq 2\sqrt{\mathstrut xy}$ が成り立つ. 等号成立は, $\sqrt{\mathstrut x} = \sqrt{\mathstrut y}$ のとき, つまり $x = y$ のときに限る.
(2)
(1) の不等式から \begin{align*} \frac{x+y+z+w}{4} &= \frac{\dfrac{x+y}{2}+\dfrac{z+w}{2}}{2} \geqq \frac{\sqrt{xy}+\sqrt{zw}}{2} \\ &\geqq \sqrt{\sqrt{xy}\sqrt{zw}} \\ &= \sqrt[4]{xyzw} \end{align*} であるので, $x+y+z+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw}$ が成り立つ. 等号成立は,「$x = y$ かつ $z = w$」かつ $\sqrt{xy} = \sqrt{zw}$ のとき, つまり $x = y = z = w$ のときに限る.
(3)
(2) において $w = \dfrac{x+y+z}{3}$ とすると, \begin{align*} &3w+w \geqq 4\sqrt[4]{xyzw} \iff w \geqq \sqrt[4]{xyzw} \\ &\iff w^4 \geqq xyzw \iff w^3 \geqq xyz \\ &\iff w \geqq \sqrt[3]{xyz} \iff x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz} \end{align*} となり, 求める不等式が得られる. また, 等号成立は $x = y = z = w$ つまり $x = y = z$ のときに限る.
(4)
周の長さが $L$ である三角形において, $3$ 辺の長さを $a,$ $b,$ $c,$ 面積を $S$ とおく. このとき,「ヘロンの公式」により, \[ S = \sqrt{\frac{L}{2}\left(\frac{L}{2}-a\right)\left(\frac{L}{2}-b\right)\left(\frac{L}{2}-c\right)}\] が成り立つ. よって, (3) の結果により, \begin{align*} \frac{16S^2}{L} &= (L-2a)(L-2b)(L-2c) \\ &\leqq \left\{\frac{(L-2a)+(L-2b)+(L-2c)}{3}\right\} ^3 \\ &= \left\{\frac{3L-2(a+b+c)}{3}\right\} ^3 = \left(\frac{3L-2L}{3}\right) ^3 \\ &= \frac{L^3}{27} \end{align*} であり, 等号成立は $L-2a = L-2b = L-2c$ つまり $a = b = c$ の場合に限る. したがって, $S$ は $a = b = c$ のとき最大となる. ゆえに, 周の長さが一定である三角形のうち面積が最大であるものは正三角形である.

別解(誘導に従わない場合)

(3)
$X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ とおくと \begin{align*} &x+y+z-3\sqrt[3]{xyz} \\ &= X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)(X^2\!+\!Y^2\!+\!Z^2\!-\!XY\!-\!YZ\!-\!ZX) \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)\cdot\frac{(X\!-\!Y)^2\!+\!(Y\!-\!Z)^2\!+\!(Z\!-\!X)^2}{2} \\ &\geqq 0 \end{align*} となるから, 求める不等式が得られる.

注意

 (2) の結果により \begin{align*} 16S^2 &= L(L-2a)(L-2b)(L-2c) \\ &\leqq \left\{\frac{L+(L-2a)+(L-2b)+(L-2c)}{4}\right\} ^4 \\ &= \left\{\frac{4L-2(a+b+c)}{4}\right\} ^4 = \left(\frac{4L-2L}{4}\right) ^4 \\ &= \frac{L^4}{16} \end{align*} となるが, 等号成立条件 $L = L-2a = L-2b = L-2c$ つまり $a = b = c = 0$ は成り立たない.

背景

  • $2$ 以上の整数 $n,$ 正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{\mathstrut x_1\cdots x_n} \geqq \frac{n}{x_1{}^{-1}+\cdots +x_n{}^{-1}}\] が成り立ち, 等号成立は $x_1 = \cdots = x_n$ の場合に限ることが知られている. 左辺を相加平均(arithmetic mean), 中辺を相乗平均(geometric mean), 右辺を調和平均(harmonic mean)と呼ぶ. 証明は, こちらを参照.
  • 周の長さが一定である図形のうち, 面積が最大の図形を求める問題を「等周問題」(isoperimetric problem)と呼ぶ. 本問では, 三角形の場合に限定してこの問題を考えたが, 一般に次のことが知られている: 周の長さが $L$ の $n$ 角形の面積 $S$ について, \[ S \leqq \dfrac{L^2}{4n\tan\dfrac{\pi}{n}}\] が成り立ち, 等号成立は正 $n$ 角形の場合に限る. また, 周の長さが一定である「閉曲線」(両端がつながった切れ目のない曲線)のうち, 面積が最大の図形は円である.
 相加・相乗平均の不等式の別証明については, こちらこちらを参照されたい.

問題≪四隅までの距離の和の最小値≫

 $4$ 点 $\mathrm A(1,1),$ $\mathrm B(-1,1),$ $\mathrm C(-1,-1),$ $\mathrm D(1,-1)$ までの距離の和が最小になるような点 $\mathrm P(x,y)$ の座標を求めよ.

解答例

\begin{align*} &\mathrm{AP}+\mathrm{BP}+\mathrm{CP}+\mathrm{DP} \\ &\geqq 2\sqrt{\mathrm{AP}\cdot\mathrm{BP}}+2\sqrt{\mathrm{CP}\cdot\mathrm{DP}} = 2(\sqrt{\mathrm{AP}\cdot\mathrm{BP}}+\sqrt{\mathrm{CP}\cdot\mathrm{DP}}) \\ &\geqq 2\cdot 2\sqrt{\sqrt{\mathrm{AP}\cdot\mathrm{BP}}\sqrt{\mathrm{CP}\cdot\mathrm{DP}}} = 4\sqrt[4]{\mathrm{AP}\cdot\mathrm{BP}\cdot\mathrm{CP}\cdot\mathrm{DP}}\ \cdots [*] \end{align*} が成り立つ. 等号が成立するとすれば \[\mathrm{AP} = \mathrm{BP} = \mathrm{CP} = \mathrm{DP}\] のときに限る. この場合, $\mathrm{AP}^2 = \mathrm{BP}^2$ と $\mathrm{AP}^2 = \mathrm{DP}^2$ から \begin{align*} (x-1)^2+(y-1)^2 &= (x+1)^2+(y-1)^2, \\ (x-1)^2+(y-1)^2 &= (x-1)^2+(y+1)^2 \end{align*} となり, \begin{align*} x^2-2x+1 &= x^2+2x+1, \\ y^2-2y+1 &= y^2+2y+1 \end{align*} となって, $4x = 0,$ $4y = 0$ から \[ x = y = 0\] となる. よって, 確かに $[\ast ]$ の値は存在して, 最小値を与える点 $\mathrm P$ の座標は $(0,0)$ である.

背景

 実は, $5$ 本の線分を使うと, 正方形 $\mathrm{ABCD}$ の四隅どうしをもっと短くつなぐことができる(こちらの問題を参照). この種の問題は「最小シュタイナー木問題」と呼ばれ, 一般に解を求めるのが困難な問題として有名である.

問題≪因数分解と $3$ 変数相加・相乗平均の不等式≫

(1)
\begin{align*} &X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)(X^2\!+\!Y^2\!+\!Z^2\!-\!XY\!-\!YZ\!-\!ZX) \end{align*} が成り立つことを示せ.
(2)
\begin{align*} &2(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2 \end{align*} が成り立つことを示せ.
(3)
$x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つことを示せ.

解答例

(1)
こちらを参照.
(2)
$a^2-2ab+b^2 = (a-b)^2$ により \begin{align*} &2(X^2+Y^2+Z^2-XY-YZ-ZX) \\ &= (X^2-2XY+Y^2)+(Y^2-2YZ+Z^2) \\ &\qquad +(Z^2-2ZX+X^2) \\ &= (X-Y)^2+(Y-Z)^2+(Z-X)^2 \end{align*} が得られる.
(3)
$X \geqq 0,$ $Y \geqq 0,$ $Z \geqq 0$ のとき, \begin{align*} &X^3+Y^3+Z^3-3XYZ \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)(X^2\!+\!Y^2\!+\!Z^2\!-\!XY\!-\!YZ\!-\!ZX) \\ &= (X\!+\!Y\!+\!Z)\frac{1}{2}((X\!-\!Y)^2\!+\!(Y\!-\!Z)^2\!+\!(Z\!-\!X)^2) \\ &\geqq 0 \end{align*} が成り立つ. この不等式に $X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ を代入すると, 求める不等式が得られる.

問題≪並び替えと相加・相乗平均の不等式≫

 次のことを示せ.
(1)
$a \geqq b,$ $c \geqq d$ のとき, $ac+bd \geqq ad+bc$ が成り立つ.
(2)
$X,$ $Y \geqq 0$ のとき, $X^2+Y^2 \geqq 2XY$ が成り立つ.
(3)
$X,$ $Y,$ $Z \geqq 0$ のとき, $X^3+Y^3+Z^3 \geqq 3XYZ$ が成り立つ.
(4)
$x,$ $y,$ $z \geqq 0$ のとき, $x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}$ が成り立つ.

解答例

(1)
$a \geqq b,$ $c \geqq d$ から $a-b \geqq 0,$ $c-d \geqq 0$ であるので, \begin{align*} (ac+bd)-(ad+bc) &= a(c-d)-b(c-d) \\ &= (a-b)(c-d) \geqq 0 \end{align*} つまり \[ ac+bd \geqq ad+bc\] が成り立つ.
(2)
$X \geqq Y \geqq 0$ として一般性を失わない. このとき, (1) から, \[ X^2+Y^2 \geqq XY+YX = 2XY\] が成り立つ.
(3)
$X \geqq Y \geqq Z \geqq 0$ として一般性を失わない. このとき, \begin{align*} X^3+Y^3+Z^3 &= X^3+Y^2Y+Z^2Z \\ &\geqq X^3+Y^2Z+Z^2Y \\ &\qquad (\because Y^2 \geqq Z^2,\ Y \geqq Z,\ (1)) \\ &= X^2X+Y^2Z+ZY\cdot Z \\ &\geqq X^2Z+Y^2Z+ZYX \\ &\qquad (\because X^2 \geqq ZY,\ X \geqq Z,\ (1)) \\ &= (X^2+Y^2)Z+XYZ \\ &\geqq 2XYZ+XYZ \quad (\because (2)) \\ &= 3XYZ \end{align*} つまり \[ X^3+Y^3+Z^3 \geqq 3XYZ\] が成り立つ.
(4)
(3) に $X = \sqrt[3]{x},$ $Y = \sqrt[3]{y},$ $Z = \sqrt[3]{z}$ を代入すると, \[ x+y+z \geqq 3\sqrt[3]{xyz}\] が得られる.

補足

 これは近年, 内田康晴氏によって発見された並べ替え不等式による相加・相乗平均の不等式 \[\frac{x_1+\cdots +x_n}{n} \geqq \sqrt[n]{x_1\cdots x_n} \quad (x_1,\ \dots,\ x_n \geqq 0)\] の証明の $n = 3$ の場合である. 一般の $n$ に対しては, 数学的帰納法で同様に証明できる (Y. Uchida, A simple proof of the geometric-arithmetic mean inequality, Pure Appl. Math. 9(2) (2008), 1–2).

問題≪和・積の関係と相加・相乗平均の不等式≫

 次のことを示せ.
(1)
$a \leqq 1 \leqq b$ のとき \[ a+b \geqq ab+1 \quad \cdots [1]\] が成り立つ.
(2)
$a_1\cdots a_n = 1$ を満たす $n$ 個の正の数 $a_1,$ $\cdots,$ $a_n$ に対して \[ a_1+\cdots +a_n \geqq n \quad \cdots [2]\] が成り立つ.
(3)
正の数 $x_1,$ $\cdots,$ $x_n$ に対して \[ x_1+\cdots +x_n \geqq n(x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}} \quad \cdots [3]\] が成り立つ.

解答例

(1)
$a \leqq 1 \leqq b$ のとき, \[ (a+b)-(ab+1) \geqq (1-a)(b-1) \geqq 0\] であるから, $[1]$ が成り立つ.
(2)
(i)
$n = 1$ のとき, $[2]$ は明らかに成り立つ.
(ii)
$n = k$ ($k$: 正の整数)のとき, $[2]$ が成り立つとして, $n = k+1$ の場合を考える. $a_k \leqq 1 \leqq a_{k+1}$ としても一般性を失わない. このとき, $[1]$ から, \begin{align*} a_1+\cdots +a_k+a_{k+1} &\geqq a_1+\cdots +a_ka_{k+1}+1 \\ &\geqq k+1 \end{align*} が成り立つ. 第 $2$ の不等号は, $a_1\cdots a_{k-1}(a_ka_{k+1}) = 1$ であることから従う.
(i), (ii) から, すべての正の整数 $n$ に対して $[2]$ が成り立つ.
(3)
$G_n = (x_1\cdots x_n)^{\frac{1}{n}},$ $a_k = \dfrac{x_k}{G_n}$ とおくと, $a_1\cdots a_n = 1$ となるから, $[2]$ により, \begin{align*} \frac{x_1}{G_n}+\cdots +\frac{x_n}{G_n} &\geqq n \\ x_1+\cdots +x_n &\geqq nG_n \end{align*} つまり $[3]$ が成り立つ.
 相加・相乗平均の不等式のその他の証明については, こちらも参照されたい.

問題≪レームスの不等式≫

 $3$ 辺の長さが $a,$ $b,$ $c,$ 外接円の半径が $R,$ 内接円の半径が $r,$ 面積が $S$ である $\triangle\mathrm{ABC}$ について, 次の問いに答えよ.
(1)
\[ abc \geqq (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)\] が成り立つことを, $x = -a+b+c,$ $y = a-b+c,$ $z = a+b-c$ という置き換えを使って示せ.
(2)
$R \geqq 2r$ が成り立つことを示せ. ただし,「ヘロンの公式」 \[ S = \dfrac{1}{4}\sqrt{(a\!+\!b\!+\!c)(-a\!+\!b\!+\!c)(a\!-\!b\!+\!c)(a\!+\!b\!-\!c)}\] (こちらを参照)が成り立つことは, 証明なしに用いてよい.

解答例

(1)
$x = -a+b+c,$ $y = a-b+c,$ $z = a+b-c$ とおく. このとき, \[ a = \frac{y+z}{2}, \quad b = \frac{z+x}{2}, \quad c= \frac{x+y}{2}\] となる. $a,$ $b,$ $c$ は三角形の $3$ 辺の長さだから $x > 0,$ $y > 0,$ $z > 0$ であることに注意すると, 相加・相乗平均の不等式により \begin{align*} abc &= \frac{y+z}{2}\cdot\frac{z+x}{2}\cdot\frac{x+y}{2} \\ &\geqq \sqrt{yz}\sqrt{zx}\sqrt{xy} = xyz \\ &= (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) \end{align*} が成り立つ. 等号成立は, $x = y = z$ つまり $a = b = c$ のときに限る.
(2)
正弦定理により
$S = \dfrac{1}{2}ab\sin C = \dfrac{abc}{4R}$ つまり $abc = 4RS$
が成り立つ. これと「ヘロンの公式」, $S = \dfrac{a+b+c}{2}r$ により, \[ 4RS \geqq \frac{16S^2}{a+b+c} = 16S\cdot\frac{r}{2} = 8rS\] つまり $R \geqq 2r$ が成り立つ. 等号成立は $a = b = c$ のときに限る.

背景

 (1) の不等式は「レームスの不等式」(Lehmus inequality), (2) の不等式は「オイラーの不等式」(Euler's inequality)として知られている. 「オイラーの不等式」は, 三角形の外心と内心の距離に関する「チャップル=オイラーの定理」(Chapple–Euler theorem, こちらを参照)に一般化される.

問題≪アルキメデスの開平法≫

 正の整数 $a,$ $b$ が $b < 2a-1$ を満たすとき, \[ a-\frac{b}{2a-1} < \sqrt{a^2-b} < a-\frac{b}{2a}\] が成り立つことを示せ.

解答例

 $\sqrt{a^2-b} < a-\dfrac{b}{2a}$ を示すには, $2a\sqrt{a^2-b} < 2a^2-b$ つまり $4a^2(a^2-b) < (2a^2-b)^2$ を示せばよい. これは \begin{align*} &(2a^2-b)^2-4a^2(a^2-b) \\ &= (4a^4-4a^2b+b^2)-(4a^4-4a^2b) \\ &= b^2 > 0 \end{align*} から成り立つ.
 また, $a-\dfrac{b}{2a-1} < \sqrt{a^2-b}$ を示すには, $(2a-1)a-b < (2a-1)\sqrt{a^2-b}$ つまり $\{ (2a-1)a-b\} ^2 < (2a-1)^2(a^2-b)$ を示せばよい. これは \begin{align*} &(2a-1)^2(a^2-b)-\{ (2a-1)a-b\} ^2 \\ &= (2a-1)^2(a^2-b) \\ &\qquad -(2a-1)^2a^2+2(2a-1)ab-b^2 \\ &= -4a^2b+4ab-b+4a^2b-2ab-b^2 \\ &= 2ab-b-b^2 \\ &= b(2a-1-b) > 0 \end{align*} から成り立つ.

背景

  • アルキメデスは $a,$ $b > 0,$ $b < 2a\pm 1$ のとき \[ a\pm\frac{b}{2a\pm 1} < \sqrt{a^2\pm b} < a\pm\frac{b}{2a}\] (複号同順)が成り立つことを使って平方根の近似値を求めていたと考えられている.
  • $3 = 2^2-1$ から, \[ 2-\frac{1}{2\cdot 2-1} < \sqrt 3 < 2-\frac{1}{2\cdot 2}\] つまり \[\frac{5}{3} < \sqrt 3 < \frac{7}{4}\] が成り立つ. よって, $\dfrac{20}{3} < 4\sqrt 3 < 7$ から, $4\sqrt 3 = \sqrt{48}$ に最も近い整数は $7$ であることが見出せる. $48 = 7^2-1$ から, \[ 7-\frac{1}{2\cdot 7-1} < 4\sqrt 3 < 7-\frac{1}{2\cdot 7}\] つまり \[\frac{90}{13} < 4\sqrt 3 < \frac{97}{14}\] が成り立ち, \[\frac{45}{26} < \sqrt 3 < \frac{97}{56}\] が成り立つ. よって, $\dfrac{1260}{13} < 56\sqrt 3 < 97$ から, $56\sqrt 3 = \sqrt{9408}$ に最も近い整数は $97$ であるであることが見出せる. $9408 = 97^2-1$ から, \[ 97-\frac{1}{2\cdot 97-1} < 56\sqrt 3 < 97-\frac{1}{2\cdot 97}\] つまり \[\frac{18720}{193} < 56\sqrt 3 < \frac{18817}{194}\] が成り立ち, \[\frac{2340}{1351} < \sqrt 3 < \frac{18817}{10864}\] が成り立つ. \[\frac{2340}{1351} = 1.7320503\cdots, \quad \frac{18817}{10864} = 1.7320508\cdots\] であるから, $\sqrt 3$ の近似値を小数第 $6$ 位まで求めることができた.

問題≪チェビシェフの和の不等式≫

 $a \geqq b,$ $a' \geqq b'$ のとき, \[\frac{aa'+bb'}{2} \geqq \frac{a+b}{2}\cdot\frac{a'+b'}{2} \quad \cdots [*]\] が成り立つことを示せ.

解答例

 $a \geqq b,$ $a' \geqq b'$ を仮定する. このとき, $a-b \geqq 0,$ $a'-b' \geqq 0$ から \begin{align*} &2(aa'+bb')-(a+b)(a'+b') \\ &= 2aa'+2bb'-(aa'+ab'+ba'+bb') \\ &= aa'-ab'-ba'+bb' \\ &= (a-b)(a'-b') \geqq 0 \end{align*} であるので, \[ 2(aa'+bb') \geqq (a+b)(a'+b')\] が成り立つ. 両辺を $4$ で割ると, $[*]$ が得られる.

背景

 本問の不等式は「チェビシェフの和の不等式」(Chebyshev's sum inequality) \begin{align*} \frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq \left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\frac{1}{n}\sum_{k = 1}^ny_k\right) \quad \cdots [*] \\ (x_1 \geqq \cdots \geqq x_n,\ y_1 \geqq \cdots \geqq y_n) \end{align*} の $n = 2$ の場合である. 不等式 $[*]$ は, 次のように証明できる. $x_1 \geqq \cdots \geqq x_n,$ $y_1 \geqq \cdots \geqq y_n$ のとき, $x_k-x_l,$ $y_k-y_l$ は同符号であるから, \begin{align*} 0 &\leqq \sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^n(x_k-x_l)(y_k-y_l) \quad \cdots [*]' \\ &= \sum_{k = 1}^n\sum_{l = 1}^n(x_ky_k-x_ky_l-x_ly_k+x_ly_l) \\ &= \sum_{k = 1}^n\left( nx_ky_k-x_k\sum_{l = 1}^ny_l-y_k\sum_{l = 1}^nx_l+\sum_{l = 1}^nx_ly_l\right) \\ &= n\sum_{k = 1}^nx_ky_k\!-\!\sum_{k = 1}^nx_k\sum_{l = 1}^ny_l\!-\!\sum_{k = 1}^ny_k\sum_{l = 1}^nx_l\!+\!n\sum_{l = 1}^nx_ly_l \\ &= 2n\sum_{k = 1}^nx_ky_k-2\left(\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k\right) \end{align*} から \[ 2n\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq 2\left(\sum_{k = 1}^nx_k\right)\left(\sum_{k = 1}^ny_k\right)\] が得られ, 両辺を $2n^2$ で割ると求める不等式 $[*]$ が得られる. 等号成立は, $[*]'$ の各項が $0$ になる $x_1 = \cdots = x_n,$ $y_1 = \cdots = y_n$ のときに限る.
 なお, $[*]$ は, $n$ 個の「並べ替え不等式」 \[\sum_{k = 1}^nx_ky_k \geqq \sum_{k = 1}^nx_ky_{k+l-1} \quad (1 \leqq l \leqq n)\] ($k+l-1 > n$ のとき $y_{k+l-1} = y_{k+l-1-n}$, こちらを参照)の辺々の和をとり, $n^2$ で割ることでも証明できる.

問題≪シューアの不等式≫

 すべての実数 $r$ に対して, $x \geqq 0,$ $y \geqq 0,$ $z \geqq 0$ のとき \begin{align*} x^r(x-y)(x-z)&+y^r(y-z)(y-x) \\ &+z^r(z-x)(z-y) \geqq 0 \quad \cdots [*] \end{align*} が成り立つことを, 次の場合に分けて示せ.
(i)
$r \geqq 0$ のとき.
(ii)
$r < 0$ のとき.

解答例

 $x \geqq 0,$ $y \geqq 0,$ $z \geqq 0$ を仮定する. $[\ast ]$ の左辺は $x,$ $y,$ $z$ に関して対称であるから, $x \geqq y \geqq z$ としても一般性を失わない.
(i)
$r \geqq 0$ のとき. $z^r \geqq 0,$ $z-x \leqq 0,$ $z-y \leqq 0$ から, \[ z^r(z-x)(z-y) \geqq 0 \quad \cdots [1]\] が成り立つ. また, $x^r \geqq y^r,$ $x-z \geqq y-z$ から \begin{align*} &x^r(x-z) \geqq y^r(y-z) \\ &x^r(x-z)-y^r(y-z) \geqq 0 \end{align*} であるので, \begin{align*} &x^r(x-y)(x-z)+y^r(y-z)(y-x) \\ &= (x-y)\{ x^r(x-z)-y^r(y-z)\} \geqq 0 \quad \cdots [2] \end{align*} が成り立つ. $[1],$ $[2]$ の辺々を加えると $[\ast ]$ が得られる.
(ii)
$r < 0$ のとき. $x^r \geqq 0,$ $x-y \geqq 0,$ $x-z \geqq 0$ から, \[ x^r(x-y)(x-z) \geqq 0 \quad \cdots [3]\] が成り立つ. また, $z^r \geqq y^r,$ $x-z \geqq x-y$ から \begin{align*} &z^r(x-z) \geqq y^r(x-y) \\ &z^r(x-z)-y^r(x-y) \geqq 0 \end{align*} であるので, \begin{align*} &y^r(y-z)(y-x)+z^r(z-x)(z-y) \\ &= (y-z)\{ z^r(x-z)-y^r(x-y)\} \geqq 0 \quad \cdots [4] \end{align*} が成り立つ. $[3],$ $[4]$ の辺々を加えると $[\ast ]$ が得られる.
(i), (ii) から, すべての場合に $[\ast ]$ が成り立つ.

背景

  • 本問の不等式を「シューアの不等式」(Schur's inequality)と呼ぶ.
  • $3$ 辺の長さが $a,$ $b,$ $c$ の三角形について, \begin{align*} &abc-(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) \\ &= a(a\!-\!b)(a\!-\!c)\!+\!b(b\!-\!c)(b\!-\!a)\!+\!c(c\!-\!a)(c\!-\!b) \\ &\geqq 0 \end{align*} から,「レムスの不等式」 \[ abc \geqq (-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)\] が成り立つ.
 $A \geqq 0,$ $B \geqq 0$ であるとき, 不等式 $A \geqq B$ を示すには, $A^2 \geqq B^2$ を示すことがしばしば有効である.

問題≪マンハッタン距離≫

(1)
すべての実数 $x,$ $y$ に対して, $|x|+|y| \geqq |x+y|$ が成り立つことを示せ.
(2)
$2$ 点 $\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y')$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P') = |x'-x|+|y'-y|\] と定める. このとき, $3$ 点 $\mathrm P,$ $\mathrm P',$ $\mathrm P''$ に対して \[ d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')\] が成り立つことを示せ.

解答例

(1)
\begin{align*} &(|x|+|y|)^2-|x+y|^2 \\ &= (|x|^2+2|x||y|+|y|^2)-(x+y)^2 \\ &= (x^2+2|xy|+y^2)-(x^2+2xy+y^2) \\ &= 2(|xy|-xy) \geqq 0 \end{align*} から $(|x|+|y|)^2 \geqq |x+y|^2$ が成り立つので, $|x|+|y| \geqq 0,$ $|x+y| \geqq 0$ に注意すると \[ |x|+|y| \geqq |x+y|\] が得られる.
(2)
$\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y'),$ $\mathrm P''(x'',y'')$ とおく. このとき, (1) で示した不等式により, \begin{align*} &d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \\ &= (|x'-x|+|y'-y|)+(|x''-x'|+|y''-y'|) \\ &= (|x''-x'|+|x'-x|)+(|y''-y'|+|y'-y|) \\ &\geqq |(x''-x')+(x'-x)|+|(y''-y')+(y'-y)| \\ &= |x''-x|+|y''-y| \\ &= d(\mathrm P,\mathrm P'') \end{align*} が成り立つ.

背景

  • 不等式 $|x|+|y| \geqq |x+y|$ を「三角不等式」(triangle inequality)と呼ぶ.
  • $2$ 点 $\mathrm P(x,y),$ $\mathrm P'(x',y')$ に対して, \[ d(\mathrm P,\mathrm P') = |x'-x|+|y'-y|\] を $\mathrm P,$ $\mathrm P'$ の「マンハッタン距離」(Manhattan distance)と呼ぶ. この概念は, 碁盤目状に道路が整備された街で $2$ 点が「どれだけ離れているか」を考える際に有効である. 例えば, 点 $\mathrm A(3,4)$ は原点を中心とする半径 $5$ の円周上にあり, 点 $\mathrm B(1,5)$ はその円の外側にあるが, 原点と点 $\mathrm A$ の「マンハッタン距離」は $3+4 = 7,$ 原点と点 $\mathrm B$ の「マンハッタン距離」は $1+5 = 6$ であり, 「マンハッタン距離」では点 $\mathrm A$ よりも点 $\mathrm B$ の方が原点に「近い」. このように我々が距離と呼ぶ「ユークリッド距離」(Euclidean distance)と「マンハッタン距離」は, ずいぶん異なるものだと感じられるかもしれないが, 次の共通の性質をもつ.
    (D1)
    $d(\mathrm P,\mathrm P') \geqq 0$ であり, $d(\mathrm P,\mathrm P') = 0$ $\iff$ $\mathrm P = \mathrm P'$ が成り立つ.
    (D2)
    $d(\mathrm P,\mathrm P') = d(\mathrm P',\mathrm P)$ が成り立つ.
    (D3)
    $d(\mathrm P,\mathrm P')+d(\mathrm P',\mathrm P'') \geqq d(\mathrm P,\mathrm P'')$ が成り立つ.
    大学で学ぶ「位相空間論」(general topology)では, これらの性質をもつ対応はすべて「距離」(distance)と呼ばれ, その理論が体系的にまとめられている.

問題≪三角不等式と方程式の解の評価≫

 $a_0,$ $a_1,$ $\cdots,$ $a_{n-1}$ $(n \geqq 1)$ を実数とし, その絶対値の最大値を $M$ とおく. 方程式 \[ x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 = 0\] が実数解 $\alpha$ $(\neq 0)$ をもつとき, $|\alpha | \leqq M+1$ が成り立つことを, 前問で示した不等式 $|x+y| \leqq |x|+|y|$ を利用して, 背理法で示せ.

解答例

 $x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 = 0$ が実数解 $\alpha$ $(\neq 0)$ をもつとする. \[\alpha ^n+a_{n-1}\alpha ^{n-1}+\cdots +a_1\alpha +a_0 = 0\] から, \[\alpha +a_{n-1}+\cdots +\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}+\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}} = 0\] が成り立つ.
仮に $|\alpha | > M+1$ が成り立つとすると, \[\frac{1}{|\alpha |} < \frac{1}{M+1} \quad \cdots [\ast ]\] となるから, \begin{align*} &|\alpha | = \left| a_{n-1}+\cdots +\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}+\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}}\right| \\ &\leqq |a_{n-1}|+\cdots +\left|\frac{a_1}{\alpha ^{n-2}}\right| +\left|\frac{a_0}{\alpha ^{n-1}}\right| \quad (\because [*]) \\ &= |a_{n-1}|+\cdots +\frac{|a_1|}{|\alpha |^{n-2}}+\frac{|a_0|}{|\alpha |^{n-1}} \\ &\leqq M\left( 1+\cdots +\frac{1}{|\alpha |^{n-2}}+\frac{1}{|\alpha |^{n-1}}\right)\ (\because |a_k| \leqq M) \\ &< M\!\left\{ 1\!+\!\cdots\!+\!\frac{1}{(M\!+\!1)^{n-2}}\!+\!\frac{1}{(M\!+\!1)^{n-1}}\right\}\ (\because [\ast ]) \\ &= M\!\cdot\!\frac{1\!-\!\left(\dfrac{1}{M\!+\!1}\right) ^n}{1\!-\!\dfrac{1}{M\!+\!1}} \!=\! M\!\cdot\!\frac{(M\!+\!1)^n\!\!-\!1}{(M\!+\!1)^n\!\!-\!(M\!+\!1)^{n-1}} \\ &= M\cdot\frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^{n-1}(M+1-1)} = \frac{(M+1)^n-1}{(M+1)^{n-1}} \\ &< \frac{(M+1)^n}{(M+1)^{n-1}} = M+1 \end{align*} となって, 矛盾が生じる.
ゆえに, $|\alpha | \leqq M+1$ が成り立つ.